表面温度計非接触の原理は?測定方法も解説!(放射率:赤外線:計測誤差:仕組みなど)
非接触式の表面温度計は、高温の設備や動いている部品に触れず、赤外線を利用して温度を確認できる便利な計測機器です。
一方で、表示された数値をそのまま信じるだけでは、材質や表面状態、測定距離の影響によって大きな計測誤差が生じることがあります。
正しい原理と放射率の考え方を押さえれば、製造現場、設備保全、研究開発、食品管理などで温度計測の信頼性を高められるでしょう。
非接触表面温度計の原理

それではまず、非接触表面温度計が温度を表示する仕組みについて解説していきます。
物体から放出される赤外線
非接触式温度計は、対象物に触れて熱を受け取るのではなく、物体表面から放射される赤外線エネルギーを検出して温度へ換算します。
すべての物体は絶対零度より高い温度にある限り、目に見えない電磁波を周囲へ放出しています。
この放射エネルギーは温度が高いほど大きくなり、温度分布に応じて波長の構成も変化します。
赤外線放射温度計のセンサーは、レンズを通して集めた赤外線を電気信号へ変換し、内部の演算回路が温度として表示する構造です。
接触式の熱電対や測温抵抗体では熱が移動して温度が安定するまで待つ必要がありますが、非接触方式では放射を捉えるため、短時間で測定しやすい特徴があります。
赤外線放射温度計の基本的な考え方は、対象物の温度が上がるほど受け取る放射エネルギーも増えるという関係です。
実際の計測では、受光した赤外線量に放射率、周囲温度、波長特性などを加味して表面温度へ換算します。
黒体と実際の測定対象
温度計の原理を理解する際には、黒体という理想的な物体を知っておくと役立ちます。
黒体は、入射した放射をすべて吸収し、温度に応じた最大の熱放射を行う理想モデルです。
黒体の放射率は1とされ、赤外線温度計の基準にも用いられます。
しかし、現場で測定する金属、樹脂、塗装面、紙、ゴム、食品などは黒体ではありません。
同じ実温度であっても、表面の材質、酸化状態、粗さ、光沢、汚れによって放射する赤外線の量は異なります。
この差を補正するために必要になる設定値が放射率です。
放射率設定が実際の表面状態と合わなければ、温度計そのものが正常でも表示温度はずれてしまいます。
温度計内部で行われる換算
非接触温度計の受光部には、熱型センサーや量子型センサーが搭載されています。
一般的なハンディタイプでは熱型センサーが使われることが多く、受け取った赤外線による温度変化を電気信号として読み取ります。
機器はその信号だけで判断するのではなく、設定された放射率と本体周辺の温度情報を用いて計算します。
そのため、測定ボタンを押す前に放射率を確認することが、精度管理の第一歩になります。
非接触温度計は対象物そのものを直接測る機器ではなく、対象から届く赤外線を測る機器と捉えると、測定条件の重要性が理解しやすくなります。
赤外線温度計の表示値は、対象物の実温度、放射率、反射した周囲の赤外線、測定視野に入った範囲の影響を受けます。
温度計を対象へ向けるだけで正確な値になるとは限らない点が、接触式温度計との大きな違いです。
放射率と表面状態の関係
続いては、測定精度を左右する放射率と表面状態の関係を確認していきます。
放射率の基本的な意味
放射率とは、同じ温度にある黒体と比較したときに、対象物がどの程度の赤外線を放射するかを表す値です。
数値は0から1の範囲で扱われ、1に近いほど黒体に近い放射特性を持ちます。
艶消しの黒い塗装面、紙、木材、ゴムなどは比較的高い放射率になりやすく、赤外線温度計で測りやすい材料です。
反対に、鏡面に近い金属、アルミニウム、銅、ステンレスなどは放射率が低く、周囲の熱源を反射しやすいため注意が必要です。
特に磨かれた金属表面では、対象物の温度よりも炉壁、照明、作業者、近くの高温設備からの反射の影響が大きく表れることがあります。
材質別の放射率の目安
放射率は材質名だけで一律に決まるものではありません。
同じ鉄でも、表面が研磨されているか、酸化しているか、塗装されているかによって値は変化します。
以下の表は、設定を検討する際の一般的な目安です。
| 測定対象 | 表面状態 | 放射率の目安 | 測定時の注意点 |
|---|---|---|---|
| 黒色塗装面 | 艶消し | 0.95前後 | 汚れや剥がれを確認します |
| ゴム | 一般的な黒色表面 | 0.95前後 | 光沢が強い場合は条件を見直します |
| 紙 | 非光沢 | 0.90から0.95程度 | 薄紙は背面温度の影響にも注意します |
| 木材 | 乾燥した自然表面 | 0.90から0.95程度 | 濡れや塗装で変動します |
| 樹脂 | 艶消し表面 | 0.85から0.95程度 | 半透明材は内部の影響を受ける場合があります |
| 鉄 | 酸化表面 | 0.70から0.90程度 | 酸化皮膜の状態を確認します |
| ステンレス | 研磨面 | 低い傾向 | 反射温度の影響が大きくなります |
| アルミニウム | 光沢面 | 低い傾向 | 黒色テープなどを利用します |
表の数値はあくまで出発点であり、保証値ではありません。
重要な計測では、接触式温度計との比較や、対象物に貼った黒色テープを基準にした確認が必要です。
放射率を合わせる実践方法
放射率を正しく設定する代表的な方法は、接触式温度計で実温度を確認しながら、赤外線温度計の設定値を調整する方法です。
対象表面の温度が安定している状態で両者を比較し、表示値が一致する放射率を探します。
金属のように反射が大きい対象では、耐熱性の高い黒色テープや黒体塗料を測定箇所に使う方法も有効です。
テープ部分は放射率が高く安定しやすいため、直接金属面を測るより再現性を得やすくなります。
例えば、金属配管の表面温度を測る場合は、配管に黒色テープを密着させ、テープが配管温度になじんだ後にその箇所を測定します。
テープの推奨放射率は製品情報を確認し、温度範囲に適合するものを選びます。
測定距離と測定スポットの基礎
続いては、測定距離と測定スポットが表示値へ与える影響を確認していきます。
距離係数の見方
非接触温度計には、距離と測定径の比率を表す距離係数が設定されています。
これは、対象から離れるほど温度計が読み取る範囲が広がることを示す指標です。
距離係数が12対1の機器では、対象から120センチメートル離れた位置で、おおよそ直径10センチメートルの範囲を測定します。
距離係数が大きいほど、離れた場所から小さな対象を測りやすくなります。
ただし、数値だけで判断せず、取扱説明書に記載された測定スポット図を確認することが大切です。
距離係数が12対1の場合の概算例です。
測定距離が60センチメートルなら測定径は約5センチメートルとなり、測定距離が240センチメートルなら測定径は約20センチメートルまで広がります。
測定対象より小さいスポットの重要性
正確な表面温度を知るには、測定スポットが対象物の中に十分収まっている必要があります。
対象物よりスポットが大きいと、背景の壁、床、空気、隣接する高温部などの赤外線まで一緒に受光してしまいます。
たとえば細い配管を遠くから測ると、温度計は配管だけでなく背景温度も平均したような値を示す可能性があります。
測定したい面積より測定スポットを小さくすることが、非接触計測の基本です。
可能な限り対象へ近づき、測定範囲を限定してから読み取ると、不要な影響を減らせます。
レーザーポインターの誤解
多くの赤外線温度計にはレーザーポインターが付いていますが、レーザーの点そのものを測っているわけではありません。
レーザーは照準の目安であり、実際にはその周辺に広がる円形または楕円形の測定視野で赤外線を受けています。
一点レーザーでは中心位置しか分かりにくい場合があり、二点レーザーや円形表示の機種では測定範囲を把握しやすいでしょう。
狭い部品、端部、溝の底、細い電線などを測る際は、レーザー表示だけで対象に当たっていると判断しないことが重要です。
測定距離を短くすれば精度が必ず上がるわけではありませんが、対象以外を視野へ入れにくくなります。
安全を確保できる範囲で近づき、対象面を十分に覆う測定スポットを作ることが実務上の基本になります。
非接触表面温度計の測定方法
続いては、現場で再現性を高める非接触表面温度計の測定方法を確認していきます。
測定前に確認する条件
測定前には、対象物の材質、表面状態、想定温度、周囲環境を整理します。
塗装面なのか金属光沢面なのか、乾燥しているか濡れているか、屋内か屋外かで設定と注意点は変わります。
温度計の測定可能範囲も必ず確認しましょう。
高温用の放射温度計を常温域で使う場合や、低温域に対応していない機種を使う場合には、十分な分解能が得られないことがあります。
また、レンズにほこり、油膜、水滴が付着すると赤外線の透過が妨げられます。
測定前に柔らかい清掃用品でレンズの状態を確認する習慣が大切です。
安定した値を得る手順
基本的には、対象へ照準を合わせ、測定スポットが対象面へ収まる距離まで近づき、放射率を設定してから測定します。
表示が変動する場合は、一度だけ測って終えるのではなく、同じ場所を数回測定して傾向を確認します。
測定箇所を少しずつ変えれば、局所的な過熱や温度むらも把握できます。
測定条件を記録することも、品質管理や設備診断では欠かせません。
使用機種、放射率、距離、測定位置、周囲温度、対象の表面状態を記録しておくと、後日の比較や異常原因の調査に役立ちます。
用途別に見る測定の注意点
電気設備の点検では、端子やブレーカーの局所的な発熱を確認するため、同一設備内の類似箇所を比較する方法が有効です。
絶対温度だけでなく、同じ負荷条件にある別相や別端子との温度差を見ることで、異常の兆候を見つけやすくなります。
食品の表面温度を確認する場合は、内部温度と表面温度が異なる点に注意が必要です。
非接触温度計は食品の中心温度を直接測れないため、加熱や衛生管理で中心温度の確認が必要な場面では、適切な接触式温度計を併用します。
樹脂成形や塗装工程では、表面の光沢、透明性、色の違いで放射率が変わることがあります。
工程ごとに基準条件を定め、基準試料との比較を行うと管理しやすくなります。
計測誤差の原因と対策
続いては、非接触温度計で起こりやすい計測誤差の原因と対策を確認していきます。
反射による表示値のずれ
低放射率の金属表面では、周囲にある高温物や低温物の赤外線が反射してセンサーへ入ります。
高温炉の近くにある金属部品を測った場合、部品自体の温度より高く表示されることがあります。
冷たい空や壁面を映しているような光沢面では、逆に低く表示される場合もあります。
このような状況では、放射率設定だけを変更しても解決しないことがあります。
黒色テープを貼る、反射源を遮る、測定角度を変えるなど、対象表面と周辺環境の両方を見直すことが必要です。
蒸気や窓材による影響
赤外線は、空気中の水蒸気、煙、粉じん、炎などの影響を受けることがあります。
特に長い距離を隔てて測定する場合は、対象と温度計の間にある空気層が誤差要因になりやすいでしょう。
炉の観察窓越しに測る場合にも注意が必要です。
一般的なガラスは赤外線を十分に透過しないため、ガラス越しに測っても対象物の正しい表面温度を得られないことがあります。
赤外線透過用の窓材を使う場合でも、その材質の透過率や温度条件に合った補正が求められます。
機器精度と作業者誤差
温度計には、表示分解能とは別に測定精度が定められています。
表示が0.1度単位であっても、実際の精度が同じとは限りません。
仕様書にある精度表示、再現性、応答時間、測定波長、使用温湿度範囲を確認しましょう。
作業者による距離の違い、狙う位置の違い、放射率設定の違いも、結果のばらつきにつながります。
温度計の精度と測定方法の精度は別の問題です。
定期的な校正、基準器との比較、標準化した手順書の運用によって、総合的な測定信頼性を高められます。
誤差が疑われるときは、温度計の故障と決めつけず、放射率、反射、測定距離、測定視野、対象表面、周囲環境の順に確認すると原因を整理しやすくなります。
複数の要因が重なっていることも多いため、ひとつずつ条件を変えて比較する姿勢が重要です。
機器選定と管理のポイント
続いては、用途に合う機器選定と日常管理のポイントを確認していきます。
温度範囲と測定波長の選び方
非接触表面温度計を選ぶ際は、まず対象温度に合う測定範囲を確認します。
常温付近の設備点検では汎用タイプが使いやすく、高温炉や溶融金属の計測では高温域に対応した専用機種が必要です。
測定波長も重要な選定項目です。
低温から中温域では長い波長帯を用いる機種が多く、高温域や金属測定では短い波長帯を利用する機種が選ばれることがあります。
対象材質、温度域、観察窓の有無を踏まえて選定すると、後の補正作業を減らせます。
単色式と二色式の違い
単色式の放射温度計は、特定の波長帯における赤外線量から温度を求めます。
汎用性が高く、多くの表面温度計で採用されている方式です。
二色式は異なる二つの波長帯の比率を利用して温度を求める方式で、高温物の測定や、煙、粉じん、対象の一部が隠れる環境で役立つ場合があります。
ただし、二色式であれば放射率の影響が完全になくなるわけではありません。
対象物の性質や波長ごとの放射特性によっては、事前検証が必要になります。
校正と保管の考え方
管理用の温度計は、定期的な校正計画に組み込むことが望ましいでしょう。
校正周期は、使用頻度、求める精度、品質管理上の重要度、使用環境によって決めます。
落下や強い衝撃を受けた機器は、外観に異常がなくても性能確認を行うと安心です。
保管時には高温多湿、直射日光、粉じんの多い場所を避け、レンズ保護キャップを使用します。
現場ごとに基準となる測定距離と放射率を決めておくと、担当者が変わっても測定条件をそろえやすくなります。
非接触表面温度計のまとめ
非接触表面温度計は、物体から放射される赤外線を検出し、放射率などの条件を用いて表面温度へ換算する計測機器です。
接触せずに素早く測れるため、高温物、回転体、通電設備、衛生面に配慮したい対象などで大きな力を発揮します。
ただし、正しい測定には放射率の設定、測定距離、測定スポット、反射、周辺環境への理解が欠かせません。
とくに光沢のある金属では反射の影響が大きいため、黒色テープを利用する方法や接触式温度計との比較が有効です。
対象より小さな測定スポットを確保し、表面状態に合う放射率を設定することが、信頼できる温度計測につながります。
用途に合った機種を選び、測定条件を記録しながら定期的に校正と点検を行うことで、設備保全や品質管理に活かせるでしょう。