気孔コンダクタンスは、植物が葉の表面にある気孔をどの程度開き、水蒸気や二酸化炭素を通しているかを示す重要な指標です。
蒸散量や光合成速度だけでなく、乾燥ストレスへの強さ、水利用効率、栽培環境の評価にも関わるため、植物生理学や農業研究で幅広く活用されています。
ただし、単位や測定機器、気孔抵抗との違いが分かりにくく、数値だけを見ても判断に迷うことがあるでしょう。
この記事では気孔コンダクタンスの意味から測定方法、数値の読み方、光合成や蒸散との関係まで、初めて学ぶ方にも分かりやすく解説します。
気孔コンダクタンスの意味と植物における役割

それではまず気孔コンダクタンスの意味と、植物がなぜ気孔を調節するのかについて解説していきます。
気孔がつくるガス交換の通り道
気孔は主に葉の表皮に存在する小さな開口部で、左右一対の孔辺細胞が開閉を調節しています。
葉は気孔を通じて大気中の二酸化炭素を取り込み、光合成によって有機物をつくります。
一方で、葉の内部にある水分は水蒸気となって外へ出ていくため、気孔が開くほど蒸散も進みやすくなります。
つまり気孔は、二酸化炭素の吸収と水分の損失を同時に左右する調節弁のような存在です。
気孔コンダクタンスは、この通り道の通しやすさを数値化したものと考えると理解しやすいでしょう。
数値が高い状態では、気孔が比較的開いていて、水蒸気や二酸化炭素が移動しやすいと推測できます。
反対に数値が低い場合は、気孔が閉じ気味であり、外部とのガス交換が抑えられている可能性があります。
コンダクタンスが示す気孔の開き具合
コンダクタンスは、ある物質が通過しやすい度合いを表す言葉です。
気孔コンダクタンスでは、葉と大気の間で水蒸気が移動する容易さを扱うことが多く、英語では stomatal conductance と表されます。
記号には gs が使われるのが一般的です。
気孔の開口幅が大きくなり、開いている気孔の数も増えると、気孔コンダクタンスは上昇しやすくなります。
ただし、気孔の大きさだけが数値を決めるわけではありません。
葉の表裏にある気孔の分布、境界層の状態、葉温、湿度、測定時の光条件なども、実際のガス交換と測定値に影響します。
気孔コンダクタンスが高いからといって、常に植物にとって良い状態とは限りません。
二酸化炭素を取り込みやすい反面、水分の消費も増えやすいため、土壌が乾いた環境では気孔を閉じる反応が生存に役立ちます。
蒸散と光合成をつなぐ生理指標
光合成には二酸化炭素が必要であり、二酸化炭素の多くは気孔を経由して葉肉細胞へ入ります。
そのため、気孔コンダクタンスが下がると二酸化炭素の供給が制限され、光合成速度も低下しやすくなります。
しかし、光合成速度は気孔だけで決まるものではありません。
葉緑体の働き、酵素活性、光の強さ、葉温、窒素栄養などの要因も関係するため、気孔コンダクタンスと光合成速度をセットで見ることが大切です。
蒸散と光合成のバランスを読み解く鍵になるのが気孔コンダクタンスです。
作物栽培では、十分な光合成を維持しながら過剰な水分損失を避けることが、収量や品質の安定につながります。
気孔コンダクタンスの単位と関連指標
続いては気孔コンダクタンスの単位と、混同されやすい関連指標を確認していきます。
一般的に使われる単位
気孔コンダクタンスの単位には、mol m−2 s−1 がよく用いられます。
これは単位葉面積あたり、単位時間あたりにどれだけ気体が移動しやすいかを、モルを基準に示した表記です。
研究分野や測定対象によっては、mmol m−2 s−1 で表されることもあります。
水蒸気に対する気孔コンダクタンスは、二酸化炭素に対する値より大きく表されることがあります。
これは水蒸気と二酸化炭素で拡散のしやすさが異なるためです。
単位の読み方の例です。
0.25 mol m−2 s−1 は、葉面積 1 平方メートルあたりで、1 秒あたり 0.25 モル相当の水蒸気が移動しやすい状態を示す指標として扱われます。
実際には葉室内の環境条件と計算式を踏まえて、測定機器が値を算出します。
気孔抵抗との反対の関係
気孔コンダクタンスと対になる概念が、気孔抵抗です。
気孔抵抗は、気体が気孔を通過しにくい度合いを示します。
気孔が閉じるほど抵抗は大きくなり、コンダクタンスは小さくなる関係です。
両者は単純化すると逆数の関係にあり、気孔抵抗を rs、気孔コンダクタンスを gs とした場合、gs は rs の逆数として表せます。
基本的な関係は次のように整理できます。
gs = 1 ÷ rs
ただし、単位系や測定対象がそろっていなければ直接比較できません。
古い研究資料では気孔抵抗、新しいガス交換研究では気孔コンダクタンスが使われる場面が多い傾向があります。
蒸散速度と水利用効率の違い
蒸散速度は、葉から実際に失われた水の量を表す指標です。
気孔コンダクタンスは水蒸気が移動しやすい状態を示すため、両者は関係しますが、同じ意味ではありません。
蒸散速度は葉と空気の水蒸気濃度差、風、湿度、葉温などによって大きく変化します。
たとえば気孔コンダクタンスが同程度でも、空気が乾燥していれば蒸散は増えやすくなります。
光合成速度を蒸散速度で割った値は、水利用効率を考える際に役立ちます。
| 指標 | 主に示す内容 | 評価での見方 |
|---|---|---|
| 気孔コンダクタンス | 気孔を通るガスの通りやすさ | 気孔開閉とガス交換能力の把握 |
| 蒸散速度 | 葉から失われる水分量 | 乾燥条件や水分消費の評価 |
| 光合成速度 | 二酸化炭素を固定する速度 | 炭素獲得能力の評価 |
| 気孔抵抗 | 気孔を通るガスの通りにくさ | コンダクタンスと逆方向の指標 |
| 水利用効率 | 水分消費に対する炭素獲得の効率 | 節水性と生産性の両面評価 |
気孔コンダクタンスを変化させる環境要因
続いては気孔コンダクタンスが変動する環境要因を確認していきます。
光と二酸化炭素濃度の影響
多くの植物では、明るくなると気孔が開きやすくなります。
これは光合成に必要な二酸化炭素を取り込むための反応であり、青色光は孔辺細胞の働きに特に関わるとされています。
朝に日射量が増えると気孔コンダクタンスが上昇し、夕方や夜間に低下する日変化を示す植物も少なくありません。
ただし、強い日射や高温によって水分不足が進むと、日中でも気孔が閉じることがあります。
葉の内部の二酸化炭素濃度も重要です。
葉内の二酸化炭素が不足すると気孔は開きやすくなり、二酸化炭素濃度が高い条件では、気孔コンダクタンスが低下する場合があります。
光が十分でも水分状態が悪ければ、気孔は二酸化炭素の取り込みを抑えることがあります。
湿度と飽差による反応
空気の乾燥度を考える際には、飽差という考え方がよく使われます。
飽差は、空気が含みうる最大の水蒸気量と、実際に含まれる水蒸気量との差を表す概念です。
飽差が大きい環境では、葉から水蒸気が逃げやすくなります。
植物は水分損失を抑えるため、飽差が高いと気孔コンダクタンスを下げる反応を示すことがあります。
同じ温度でも湿度が低いと、葉はより乾燥ストレスを受けやすくなります。
温室や植物工場では、温度だけでなく湿度と飽差をあわせて管理することが、安定した気孔反応につながります。
一方で、湿度が高すぎる状態が長く続くと、蒸散流が弱くなり、養分移動や生育バランスに影響することもあります。
土壌水分とアブシシン酸の働き
根の周辺で水分不足が進むと、植物は乾燥ストレスを感知します。
その際に重要な役割を担う植物ホルモンがアブシシン酸です。
アブシシン酸は孔辺細胞に作用し、細胞内のイオン移動や膨圧を変化させることで気孔閉鎖を促します。
この反応によって気孔コンダクタンスは低下し、蒸散による水分損失を抑えます。
短期的には光合成が制限される可能性がありますが、深刻な乾燥を乗り越えるための防御反応といえるでしょう。
気孔の閉鎖は生育不良の単純な証拠ではなく、水分を守るための能動的な調節でもあります。
気孔コンダクタンスの測定方法と機器
続いては気孔コンダクタンスの代表的な測定方法と、測定時の注意点を確認していきます。
ポロメーターによる簡易測定
ポロメーターは、主に葉からの水蒸気移動を利用して気孔の状態を評価する装置です。
葉にセンサー部を密着させ、一定条件での湿度変化や拡散の速さを測定し、気孔コンダクタンスまたは気孔抵抗として表示します。
携帯型の機器も多く、圃場や温室で複数の葉を比較したい場合に便利です。
ただし、葉の表側と裏側で気孔密度が異なる植物では、どちらの面を測定したかを記録する必要があります。
葉の表面に水滴がある場合や、センサーの密閉が不十分な場合にも、測定値が不安定になることがあります。
光合成測定装置によるガス交換測定
光合成測定装置は、葉を葉室に入れ、二酸化炭素濃度、水蒸気濃度、流量、光量、温度などを制御しながらガス交換を測定する装置です。
この方法では、光合成速度、蒸散速度、葉内二酸化炭素濃度、気孔コンダクタンスなどを同時に求められます。
気孔反応を光合成との関係で詳しく解析したい場合は、ガス交換測定が特に有効です。
一方で、葉が測定環境に慣れるまで時間がかかることがあります。
葉室内の光量や二酸化炭素濃度を実際の栽培環境と大きく変えると、得られた値の解釈にも注意が必要です。
比較測定の基本例です。
同じ品種の葉を、光量、葉温、二酸化炭素濃度、流量をそろえた条件で測定します。
土壌水分だけを変えて gs と光合成速度を比較すると、乾燥が気孔制限に与える影響を整理しやすくなります。
測定時にそろえたい条件
気孔コンダクタンスは環境変化に敏感なため、異なる日に測定した値を単純に比較するだけでは不十分です。
測定時刻、日射条件、温度、相対湿度、風、灌水後の経過時間、葉位、葉齢を記録しましょう。
特に午前と午後では、同じ個体でも水分状態や光条件が変わり、数値が大きく異なることがあります。
葉を選ぶ際には、病害虫被害や傷のない、十分に展開した葉を対象にするのが基本です。
| 確認項目 | 測定値への主な影響 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 測定時刻 | 日変化による変動 | 比較する試料は近い時刻に測る |
| 葉温 | 蒸散と飽差の変化 | 機器表示と周辺環境を記録する |
| 湿度 | 水蒸気拡散の変化 | 急な湿度変動を避ける |
| 土壌水分 | 乾燥ストレスによる閉孔 | 灌水履歴をそろえる |
| 葉齢 | 気孔密度や生理活性の差 | 同程度の葉位を選ぶ |
測定値の読み方と栽培・研究での活用
続いては測定値をどのように読み取り、栽培や研究に活かすのかを確認していきます。
高い値と低い値を判断する視点
気孔コンダクタンスには、すべての植物に当てはまる絶対的な正常値はありません。
植物種、品種、葉の発達段階、測定条件によって基準が変わるためです。
そのため、単発の数値を評価するより、同じ条件での対照区との比較や、時間経過に伴う変化を見ることが重要になります。
高い値が続く場合は、気孔が開いてガス交換が活発である可能性があります。
低い値が続く場合は、乾燥、高温、塩ストレス、根の障害、病害、低温などの影響を受けているかもしれません。
数値の大小だけではなく、光合成速度と蒸散速度がどう変化したかを併せて確認する視点が欠かせません。
乾燥ストレスと品種比較への応用
耐乾性の評価では、土壌水分を段階的に低下させたときに、各品種の気孔コンダクタンスがどのように変化するかを調べます。
早い段階で気孔を閉じる品種は水を節約しやすい一方、光合成が早く抑制される可能性があります。
反対に気孔を開いた状態で維持しやすい品種は、条件によっては光合成を保てますが、急な乾燥では水分消費が大きくなることもあります。
耐乾性は、気孔コンダクタンスが高いか低いかだけでは決まりません。
根の吸水能力、葉の保水性、浸透圧調節、回復力、最終的な収量まで含めて評価することが重要です。
研究では、乾燥処理前後の gs、光合成速度、葉水ポテンシャル、葉温を組み合わせることで、植物の応答をより立体的に捉えられます。
温室環境と灌水管理への応用
施設園芸では、気孔コンダクタンスを植物の水分状態を知る手がかりとして活用できます。
日中に gs が急低下している場合、根域の水分不足、培地の塩類集積、高温、過度な飽差などを疑うきっかけになります。
一方で、湿度を高く保ちすぎて蒸散が弱い状態も、必ずしも望ましいとはいえません。
環境制御では、日射量に応じた灌水、換気、遮光、加湿、除湿を組み合わせ、植物が安定してガス交換できる状態を整えることが目標です。
気孔コンダクタンスは、植物が環境をどのように感じているかを示す生体情報として役立ちます。
気孔コンダクタンスに関するよくある疑問
続いては気孔コンダクタンスを学ぶ際に生じやすい疑問を確認していきます。
気孔コンダクタンスが高ければ光合成も高いのか
気孔コンダクタンスが高いと、二酸化炭素が葉内へ入りやすくなるため、光合成速度が高まりやすい条件はあります。
しかし、光が不足している場合や、葉温が不適切な場合、光合成関連の酵素活性が低下している場合には、gs が高くても光合成が伸びないことがあります。
また、窒素不足や病害によって葉の光合成能力そのものが低下しているケースも考えられます。
気孔コンダクタンスは二酸化炭素の入口を評価する指標であり、葉内での固定能力まで単独で示すものではありません。
日中に数値が下がるのは異常なのか
日中に日射や気温が高まり、空気が乾燥すると、植物は水分を守るために気孔を部分的に閉じることがあります。
このような日中低下は、多くの植物で見られる自然な反応の一つです。
ただし、午前中から極端に低い値が続く、灌水後も回復しない、葉が萎れるといった症状が重なる場合は、根域環境や病害虫などを確認したほうがよいでしょう。
日中低下の有無よりも、低下の程度、回復の速さ、ほかの生育指標との関係を見ることが重要です。
葉の表と裏のどちらを測るべきか
植物によって気孔が多い面は異なります。
多くの陸上植物では葉の裏側に気孔が多く分布しますが、単子葉類や水生植物などでは異なる場合があります。
ポロメーターで片面ずつ測定する場合は、植物種の気孔分布を確認し、測定面を統一しましょう。
表裏の両方に気孔がある植物では、それぞれの測定値を合算して葉全体の状態を評価する考え方もあります。
記録には葉の向き、測定位置、葉位を残しておくと、後の比較や再現性の確認に役立ちます。
気孔コンダクタンスのまとめ
気孔コンダクタンスは、植物の気孔が水蒸気や二酸化炭素をどれだけ通しやすいかを表す植物生理学の重要な指標です。
値が高いとガス交換が活発になりやすく、値が低いと水分損失を抑えるために気孔が閉じている可能性があります。
ただし、数値は光、温度、湿度、飽差、土壌水分、葉齢、測定時刻など多くの要因で変動します。
気孔コンダクタンスは単独で結論を出す数値ではなく、光合成速度、蒸散速度、葉温、水分状態と組み合わせて読む指標です。
ポロメーターや光合成測定装置を使う際は、測定条件をそろえ、比較できる記録を残すことが欠かせません。
栽培管理、乾燥ストレスの評価、品種比較、環境制御に活かせば、植物の見た目だけでは分かりにくい反応を把握しやすくなるでしょう。