磁気シールドとは?意味や仕組み・原理も!(電磁波遮断:素材:透磁率・用途など)
磁気シールドは、電子機器や計測装置の周囲にある磁界の影響を抑え、誤作動や測定誤差を防ぐための技術です。
スマートフォン、医療機器、工場の制御盤、音響機器などでは、目に見えない磁気ノイズが性能を左右する場面があります。
ただし、磁気シールドは単に金属で覆えばよいものではありません。
対象となる磁界の強さ、周波数、距離、使用環境に応じて、素材の透磁率や形状、接地方法まで考える必要があります。
この記事では、磁気シールドの意味から原理、素材、電磁波遮断との違い、用途別の考え方までを分かりやすく解説します。
磁気シールドの意味と基本原理

それではまず磁気シールドの意味と基本原理について解説していきます。
磁気シールドが果たす役割
磁気シールドとは、外部から入り込む磁界、または装置内部から発生する磁界をコントロールし、影響を受ける場所へ届きにくくする対策です。
重要なのは、磁気を完全に消すのではなく、磁束が通りやすい経路を用意して、守りたい部品から磁束を遠ざける点にあります。
磁束を吸収するというより、磁束の通り道を変える技術と考えると、仕組みを理解しやすくなるでしょう。
たとえば、微小な電圧を扱うセンサーの近くにモーターやトランスがある場合、漏れ磁束によって測定値が揺らぐことがあります。
このようなとき、センサーの周囲や磁界の発生源を高透磁率材料で覆うことで、ノイズの回り込みを抑えられます。
磁界と磁束の関係
磁界は、磁石や電流が作る磁気的な作用の広がりです。
一方の磁束は、ある面を通過する磁界の量を表す考え方であり、磁気シールドの設計では磁束がどこを流れるかを意識します。
空気は磁束を通しにくい一方で、鉄やパーマロイなどの高透磁率材料は、磁束にとって通りやすい経路になります。
透磁率は、材料が磁束を通しやすい度合いです。
相対透磁率が高い材料ほど、空気中を進む磁束を材料側へ誘導しやすくなります。
ただし、透磁率が高ければ、すべての条件で最適というわけではありません。
強い磁界では材料が磁気飽和を起こし、期待した遮蔽性能を出せなくなる場合もあります。
電磁波遮断との違い
磁気シールドと電磁波遮断は近い言葉として扱われますが、主な対象には違いがあります。
電磁波対策では、導電性の高い金属板や導電布を使い、電界や高周波ノイズを反射または減衰させる方法が一般的です。
これに対して低周波の磁界では、アルミニウムや銅だけでは十分な効果を得にくいことがあります。
低周波磁界には高透磁率材料、高周波の電磁波には導電性材料という基本的な役割分担を押さえることが大切です。
| 対象 | 主な対策 | 代表的な素材 | 考えるポイント |
|---|---|---|---|
| 低周波磁界 | 磁束の経路を変える | 鉄、パーマロイ、電磁鋼板 | 透磁率、飽和磁束密度、形状 |
| 高周波磁界 | 渦電流による減衰 | 銅、アルミニウム | 導電率、厚み、周波数 |
| 電界 | 導電体で覆う | 銅、アルミニウム、導電布 | 接地、隙間、開口部 |
| 複合ノイズ | 複数の材料を組み合わせる | 高透磁率材と導電材 | 層構成、コスト、放熱性 |
磁界と電磁波を遮る仕組み
続いては磁界と電磁波を遮る仕組みを確認していきます。
高透磁率による磁束誘導
高透磁率材料を用いた磁気シールドでは、磁束がシールド材へ流れやすくなる性質を利用します。
守りたい部品の周囲に筒状や箱状のシールドを配置すると、外部磁界の一部がシールド材の中を迂回し、内部へ入り込みにくくなります。
この効果は、シールド材が連続した磁路を持つほど高まりやすい傾向があります。
継ぎ目、穴、開口部が多いと磁束がそこから回り込みやすくなるため、ケース設計では接合部の処理も重要です。
磁気シールドの性能は材料名だけでなく、磁路の連続性によって大きく変わります。
渦電流による高周波減衰
変化する磁界が導電性材料に近づくと、材料内部に渦電流が発生します。
この渦電流が元の磁界の変化を打ち消す向きに働くため、高周波領域では銅やアルミニウムでも遮蔽効果が現れます。
周波数が高くなるほど表面近くに電流が集中する表皮効果も、シールド設計に関係します。
高周波対策では、材料の厚みだけでなく、周波数と表皮深さの関係を確認します。
薄い金属箔でも有効な場合がある一方、低周波磁界では厚くしても効果が限られることがあります。
このため、交流電源由来の低周波ノイズと、無線通信機器由来の高周波ノイズを同じ方法で処理しないことが必要です。
距離と配置が及ぼす影響
磁界対策では、発生源と影響を受ける部品の距離を確保するだけでも効果があります。
モーター、トランス、電源ケーブルなどの磁界発生源を、アナログ回路、磁気センサー、医療用検出器から離す設計は基本対策です。
また、磁気シールドを発生源側に設置するか、受信側に設置するかによっても、必要な大きさと性能が変わります。
強い磁界の発生源を小さく囲える場合は、発生源側で対策するほうが効率的なことがあります。
一方で、既設設備の改修では、影響を受ける計測器や制御基板を局所的に保護する方法が現実的でしょう。
配線の往復を近づけてループ面積を小さくすることも、不要な磁界を減らす有効な工夫です。
素材と透磁率の選び方
続いては素材と透磁率の選び方を確認していきます。
鉄と電磁鋼板の特徴
鉄や電磁鋼板は、比較的入手しやすく、加工性とコストのバランスを取りやすい磁気シールド材料です。
電源トランスのカバー、制御盤、機械設備の周辺部品など、比較的大きな部材を必要とする用途で利用されています。
純鉄に近い材料は磁束を通しやすい性質を持ちますが、板厚、曲げ加工、溶接、応力によって磁気特性が変わる場合があります。
加工後の性能まで見込んで材料を選定することが、実務上のポイントになります。
特に小型ケースでは、材料の性能よりも隙間や開口部の影響が目立つことがあるため、組み立て方法も同時に検討しましょう。
パーマロイと高透磁率材料
パーマロイは、ニッケルと鉄を主成分とする高透磁率合金の総称として知られています。
弱い磁界を扱う精密計測、磁気ヘッド、医療用センサー、研究装置などでは、非常に高い透磁率が求められることがあります。
高透磁率材料は、微弱磁界に対して優れた遮蔽性能を示しやすい反面、材料費や加工費が高くなりがちです。
また、曲げ、打ち抜き、ねじ止めなどによる残留応力で特性が下がることもあるため、必要に応じて焼鈍処理を行います。
パーマロイは高性能ですが、加工条件と熱処理を含めて初めて性能を発揮する材料です。
銅とアルミニウムの活用
銅とアルミニウムは透磁率が高い材料ではありませんが、導電性を利用した高周波ノイズ対策で力を発揮します。
銅は導電率が高く、電磁波シールド、ケーブルシールド、基板周辺のノイズ対策に使われます。
アルミニウムは軽量で加工しやすく、筐体やカバーとして採用しやすい素材です。
| 素材 | 得意な用途 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 鉄 | 低周波磁界の対策 | 低コストで加工しやすい | 錆、重量、飽和 |
| 電磁鋼板 | トランス周辺、設備用カバー | 磁気特性を考慮しやすい | 方向性や加工条件の確認 |
| パーマロイ | 精密計測、微弱磁界対策 | 非常に高い透磁率 | 高価で応力の影響を受けやすい |
| 銅 | 高周波電磁波対策 | 高い導電率 | 重量と材料費 |
| アルミニウム | 軽量筐体、高周波対策 | 軽く加工しやすい | 低周波磁界には限定的 |
低周波磁界と高周波電磁波が混在する環境では、高透磁率材料と銅またはアルミニウムを重ねる多層構造が候補になります。
ただし、層を増やすほど性能が必ず比例して伸びるわけではないため、試験による確認が欠かせません。
用途別の設計と実装
続いては用途別の設計と実装を確認していきます。
電子機器と制御盤の対策
電子機器では、スイッチング電源、リレー、モーター、インバーターなどがノイズ源になりやすい部品です。
制御盤の内部では、電源系配線と信号系配線を分離し、必要に応じて仕切り板やシールドケースを設けます。
磁気シールド材を用いる場合でも、配線が大きな輪を作ると誘導ノイズを受けやすくなります。
配線をより合わせる、往復線を近接させる、アースの取り方を整理するなど、回路と配線の対策を組み合わせることが重要です。
シールド材だけに頼らず、ノイズ源、伝わる経路、影響を受ける回路の三つを分けて考えると改善点が見つかりやすくなります。
医療機器と精密計測の対策
医療機器や精密計測機器では、ごく小さな信号を安定して読み取る必要があります。
地磁気、建物内の配電設備、エレベーター、近隣設備のモーターなどが、意図しない測定変動につながることもあります。
このような用途では、測定部だけを覆う局所シールドから、部屋全体を対象とする磁気シールド室まで、要求精度に応じた対策が検討されます。
精密測定では、対策前後の値を一度だけ比べるのでは不十分です。
時間帯、設備の稼働状態、測定位置を変えながら再現性を確認することで、磁界の影響を判断しやすくなります。
高感度な装置ほど、ドアの隙間、ケーブル引き込み部、金属部品の磁化といった細かな要因にも注意が必要でしょう。
音響機器と通信機器の対策
オーディオ機器では、電源トランスからの漏れ磁束が、フォノイコライザーやプリアンプなどの微小信号回路に影響する場合があります。
ハムノイズが聞こえるときは、部品の距離、向き、配線ルート、ケースの材質を順に見直すことが有効です。
通信機器では、高周波の電磁波漏洩や外来ノイズへの対策として、導電性のある筐体、ガスケット、導電テープ、シールドケーブルが使われます。
磁気対策と電波対策は重なる部分があっても、必要な材料と評価方法が異なります。
使用周波数やノイズの発生条件を確認したうえで、磁気シールドと電磁波シールドを使い分けることが欠かせません。
測定評価と注意点
続いては測定評価と注意点を確認していきます。
磁束密度の測定方法
磁気シールドの効果を確認するには、対策前後で磁束密度を測定します。
代表的な測定器には、ホール素子を利用するガウスメーターや、微弱磁界に対応するフラックスゲート磁力計があります。
測定値の単位にはテスラやマイクロテスラが用いられ、対象の磁界強度に合ったレンジを選ぶことが必要です。
測定器の向きによって値が変わることがあるため、三軸測定が可能な機器を使う、または測定方向を明確に記録する工夫が求められます。
数値だけでなく、測定位置、距離、方向、周囲設備の稼働状態を残すことが、評価の信頼性につながります。
開口部と隙間の影響
シールドケースに穴や隙間があると、そこが磁界や電磁波の侵入経路になる可能性があります。
放熱孔、コネクター部、ケーブル出口、ふたの合わせ目は、性能低下が起こりやすい箇所です。
しかし、開口部を完全になくすと、放熱、保守、組み立てが難しくなることもあります。
必要な開口部は小さくまとめ、磁路や導通が途切れない形状を検討することが現実的です。
シールド性能を高めるために密閉性だけを追求すると、温度上昇や整備性の悪化を招くことがあります。
遮蔽性能、放熱性、組立性、コストを同時に満たす設計が、長期運用では重要になります。
飽和と残留磁気への注意
高透磁率材料でも、強い磁界を受けると磁気飽和を起こします。
飽和状態になると、それ以上の磁束を十分に誘導できず、内部へ磁界が漏れやすくなることがあります。
また、鉄系材料は磁化された状態が残り、残留磁気が精密機器へ影響する場合もあります。
溶接、曲げ、切断、ねじ締めなどの加工工程で磁気特性が変化することもあるため、完成品の状態で評価することが大切です。
カタログ上の透磁率だけで性能を判断せず、実装後の測定結果を優先する姿勢が求められます。
まとめ
磁気シールドとは、磁束が通りやすい材料へ磁界を誘導し、電子機器や計測機器への影響を抑える技術です。
低周波磁界の対策では鉄、電磁鋼板、パーマロイなどの高透磁率材料が役立ち、高周波の電磁波対策では銅やアルミニウムなどの導電性材料が活用されます。
素材選びでは、透磁率だけでなく、磁気飽和、板厚、加工による特性変化、重量、コストも確認する必要があります。
また、シールドケースの隙間、開口部、配線経路、発生源との距離は、実際の遮蔽性能を大きく左右します。
目的に合う磁気シールドは、材料、形状、配置、測定評価を組み合わせて設計することで実現します。
ノイズの種類と周波数を把握し、対策前後の磁束密度や機器動作を比較しながら、無理のない方法を選んでいきましょう。