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励磁突入電流とは?原因や現象をわかりやすく解説!(変圧器:投入時:過渡現象:磁気回路:残留磁束など)

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変圧器に電源を投入した瞬間、定格電流の数倍〜10倍以上の大電流が流れることがあります。

これが「励磁突入電流(Inrush current)」と呼ばれる現象であり、保護リレーの誤動作・変圧器へのストレス・系統電圧の乱れなどを引き起こすため、電力系統の設計・保護において重要な課題です。

本記事では、励磁突入電流の定義・発生原因・残留磁束との関係・波形特性・影響まで詳しく解説します。

励磁突入電流とは何か?基本的な定義と概要

それではまず、励磁突入電流の基本的な定義と概要について解説していきます。

励磁突入電流とは、変圧器に電源を投入した瞬間(スイッチオン時)に発生する、定常時の励磁電流を大幅に超える過渡的な大電流のことです。

英語では「Inrush current(インラッシュカレント)」または「Magnetizing inrush current」と呼ばれます。

励磁突入電流は通常、変圧器の定格電流の5〜10倍以上に達することがあり、場合によっては20倍を超えることもあります。

励磁突入電流は「過渡的な現象」であり、通常は数サイクル〜数十サイクル(0.1秒〜数秒)で定常の励磁電流に収束します。

しかし、この短時間の大電流は保護リレーの誤動作・系統電圧の低下・機器ストレスの原因となるため、適切な対策が必要です。

励磁突入電流が発生するメカニズム

励磁突入電流が発生する根本的なメカニズムは、変圧器の鉄心の磁気飽和にあります。

変圧器に電圧を印加すると、一次コイルには電源電圧を積分した波形に比例した磁束が鉄心に発生しようとします。

投入時の電圧位相によっては、過渡的に鉄心の飽和磁束密度を超えるような磁束が発生しようとし、鉄心が深く磁気飽和した状態になります。

磁気飽和域では鉄心のインダクタンスが急激に低下するため、オームの法則に従って非常に大きな電流が流れるのです。

残留磁束と励磁突入電流の関係

励磁突入電流の大きさに最も大きく影響する要因の一つが「残留磁束(Residual flux)」です。

変圧器の電源が遮断された際、鉄心には磁束が残留する性質があります。

この残留磁束と、再投入時に発生しようとする過渡磁束が同方向に重なると、鉄心の磁束密度が飽和磁束密度をはるかに超える状態になり、大きな励磁突入電流が発生します。

投入角と残留磁束の影響

最悪条件(残留磁束あり+最悪投入位相):最大の励磁突入電流

最良条件(残留磁束なし+最適投入位相):励磁突入電流を最小化

磁束のピーク ≒ 定常磁束振幅 + 残留磁束 + 過渡磁束

投入電圧位相と励磁突入電流の大きさの関係

励磁突入電流の大きさは変圧器を投入する瞬間の電源電圧の位相(投入角)によっても大きく変わります。

電圧の零点付近(電圧がゼロになる瞬間)で投入すると過渡磁束が最大となり、励磁突入電流が最も大きくなります。

電圧のピーク付近で投入すると過渡磁束が小さくなり、励磁突入電流を抑制できます。

この原理を応用したのが「投入角制御方式(Controlled switching)」と呼ばれる突入電流抑制技術です。

励磁突入電流の波形特性と電力系統への影響

続いては、励磁突入電流の波形特性と電力系統への影響について確認していきます。

励磁突入電流の波形の特徴

励磁突入電流の波形には、定常時の励磁電流と明確に異なる特徴があります。

第一に、波形の非対称性(直流偏磁)です。投入直後の励磁突入電流は正方向に大きく偏った非対称波形となり、直流成分を多く含みます。

第二に、高調波の多さです。基本波に加えて第2次・第3次・第4次など多くの高調波成分を含みます。

第三に、時間の経過とともに減衰して定常状態に収束するという過渡特性です。

保護リレーへの影響と誤動作の問題

励磁突入電流は変圧器保護の観点から非常に重要な課題です。

励磁突入電流は大きな電流であるため、過電流保護リレーや差動保護リレーが内部故障と誤認して不必要に動作(誤動作)する可能性があります。

特に比率差動リレー(87T)での誤動作が問題となりやすく、第2高調波抑制(SHO:Second Harmonic Restraint)機能が活用されます。

励磁突入電流の波形に含まれる第2高調波成分を検出し、これが一定値以上の場合はリレーの動作を抑制することで誤動作を防止しています。

系統電圧低下と機器への影響

大容量変圧器の投入時に発生する励磁突入電流は、電力系統に電圧低下(電圧ディップ)をもたらすことがあります。

この電圧低下は、同じ系統に接続されている他の機器(モーター・精密機器・半導体製造装置など)の誤動作・性能低下を引き起こすことがあります。

変圧器自体にも過渡的な大電流による機械的ストレス・絶縁ストレスが加わるため、頻繁な投入・遮断操作は変圧器の寿命低下につながることも覚えておくべき点でしょう。

まとめ

本記事では、励磁突入電流の定義・発生メカニズム・残留磁束との関係・投入角の影響・波形特性・保護リレーへの影響まで詳しく解説しました。

励磁突入電流は変圧器投入時に発生する過渡的な大電流であり、鉄心の磁気飽和・残留磁束・投入電圧位相が主な発生要因です。

保護リレーへの誤動作対策・系統電圧への影響・機器ストレスの観点から、励磁突入電流への適切な理解と対策が変圧器の安定運用に不可欠でしょう。

本記事を参考に、励磁突入電流への理解をさらに深めていただければ幸いです。