誘導電動機の等価回路とは?構成や求め方も!(一次側・二次側:励磁回路:T形等価回路:計算方法など)
誘導電動機は工場設備、ポンプ、送風機、コンベヤなどで広く利用される代表的な交流電動機です。
実機の内部では磁束、漏れリアクタンス、鉄損、回転子電流が複雑に関係しますが、等価回路を使うと電圧や電流、トルク、効率を計算しやすくなります。
この記事では、一次側と二次側の要素、励磁回路、T形等価回路の考え方を整理し、パラメータの求め方と計算時の注意点まで解説します。
誘導電動機の等価回路の概要
それではまず誘導電動機の等価回路について解説していきます。
変圧器に近い考え方
誘導電動機の等価回路は、変圧器の等価回路を回転機械向けに拡張したものと考えると理解しやすくなります。
固定子巻線に三相交流電圧を加えると、回転磁界が生まれます。
回転磁界は回転子導体を横切り、電磁誘導によって回転子に電圧と電流を発生させます。
この一次側で磁束を作り、二次側で誘導電流が流れる関係は、変圧器の一次巻線と二次巻線の関係に似ています。
ただし変圧器の二次側は停止しているのに対し、誘導電動機の回転子は回転します。
この回転による周波数変化や機械出力を表すために、すべりを用いた抵抗成分が等価回路へ加えられます。
電気現象を回路要素へ置き換える目的
実際の誘導電動機では、巻線抵抗、漏れ磁束、主磁束、鉄心の損失、回転子の銅損などが同時に生じます。
それぞれをそのまま電磁場として扱うと、設計計算や運転状態の比較に手間がかかります。
そこで損失や磁気的な現象を抵抗とリアクタンスに置き換え、交流回路として扱います。
等価回路は内部現象を完全に写す図ではなく、端子から見た電気的な振る舞いを計算するモデルです。
このモデルを使えば、始動電流が大きくなる理由、負荷が増えたときの電流変化、力率低下の要因なども順序立てて確認できます。
一相分で表す理由
三相誘導電動機は通常、平衡した三相電源で運転されます。
各相の巻線定数と電流がほぼ対称であれば、三相すべてを個別に計算しなくても、一相分の等価回路で解析できます。
相電圧と相電流を用いて一相当たりの電力を求め、その値を三倍すれば三相全体の電力になります。
Y結線では相電圧が線間電圧の三分の一の平方根となり、Δ結線では相電圧と線間電圧が等しくなります。
結線条件を取り違えると計算結果が大きくずれるため、等価回路へ代入する電圧が相電圧か線間電圧かを最初に確認することが重要です。
誘導電動機の等価回路では、一次側の入力電力が鉄損、一次銅損、二次銅損、機械出力へ配分される流れを把握できます。
回路図を暗記するよりも、各素子がどの損失やエネルギー変換を表すかを対応付けることが理解への近道です。
一次側と二次側の回路要素
続いては一次側と二次側の回路要素を確認していきます。
一次抵抗と一次漏れリアクタンス
固定子巻線の抵抗は一般にR1で表します。
R1には固定子導体の抵抗による損失が現れ、一次電流をI1とすると一次銅損は三相全体で三R1I1の二乗として求められます。
固定子の漏れ磁束によるリアクタンスはX1です。
漏れ磁束は空隙を通って回転子へ十分に結合しない磁束であり、電流の変化を妨げる成分として働きます。
一次側のインピーダンスはR1とjX1の直列回路として表現されます。
始動時には大きな電流が流れるため、一次側の電圧降下を無視できない機種もあります。
二次抵抗と二次漏れリアクタンス
回転子側の抵抗はR2、漏れリアクタンスはX2で表されます。
ただし一次側の回路と一緒に扱う際には、回転子側の値を巻数比で一次側へ換算します。
換算後の値にはダッシュを付け、R2′、X2′と書くことが一般的です。
かご形誘導電動機では回転子導体が短絡環で接続されており、通常運転中に外部から回転子回路へ抵抗を加えることはできません。
一方、巻線形誘導電動機では外部抵抗を利用し、始動トルクや始動電流を調整する方式もあります。
二次抵抗はトルク特性と深く関係し、始動性能を考える際に重要な定数です。
すべりを含む抵抗成分
誘導電動機では、同期速度と回転子速度の差をすべりで表します。
すべりはsで表し、同期速度をNs、回転子速度をNとすると、sはNsからNを引いた値をNsで割った比率です。
停止中はNがゼロとなるため、すべりは一です。
無負荷に近づくほど回転子速度は同期速度へ近づき、すべりは小さくなります。
すべりの考え方は次のように整理できます。
s = (同期速度 − 回転子速度)÷ 同期速度
回転子側の等価抵抗は、一次換算値を用いてR2′÷sと表されます。
この抵抗には二次銅損に相当するR2′と、機械出力へ変換される成分R2′(一÷s − 一)が含まれます。
すべりが小さい定格運転時には、R2′÷sが大きな値になります。
これは回転子回路の物理的な抵抗が増えたという意味ではなく、空隙を越えて伝わった電力のうち機械出力へ変換される割合を回路上で表した結果です。
励磁回路と鉄損抵抗
続いては励磁回路と鉄損抵抗を確認していきます。
励磁リアクタンスの役割
誘導電動機では、回転磁界を作るために励磁電流が必要です。
励磁電流に対応する要素が励磁リアクタンスXmです。
Xmは主磁束を作るための磁気回路を、交流回路上のリアクタンスとして置き換えたものです。
負荷が軽くても誘導電動機がある程度の電流を必要とするのは、主に励磁電流が流れるためです。
この電流は有効電力よりも無効電力の割合が大きく、無負荷時の力率を低くする要因になります。
小容量機ほど励磁電流の比率が相対的に大きくなりやすい点も、設備選定では見逃せません。
鉄損抵抗の意味
鉄心では磁束の変化に伴い、ヒステリシス損と渦電流損が発生します。
これらをまとめたものが鉄損であり、等価回路ではRcまたはR0と表される鉄損抵抗で表現します。
鉄損抵抗は励磁リアクタンスと並列に配置されます。
Rcへ流れる電流は鉄損を消費する有効電流であり、Xmへ流れる電流は主に磁束を作る無効電流です。
周波数や印加電圧が変わると鉄損も変化します。
インバータ駆動では高調波成分の影響もあるため、商用周波数だけを前提とした簡易計算では誤差が出る場合があります。
無負荷試験との関係
励磁回路の定数は、無負荷試験の測定値から推定できます。
定格周波数で無負荷運転を行い、入力電圧、電流、電力を測定します。
無負荷時のすべりは非常に小さいため、二次側の有効電力は小さく、入力電力の多くは鉄損と機械損、一次銅損に対応します。
機械損を含めて扱う近似や、別途補正する方法など、解析目的によって処理は変わります。
測定した一相当たりの有効電力と無効電力から、鉄損抵抗と励磁リアクタンスを算出します。
励磁回路は二次側の直列回路とは異なり、主磁束を作るための分岐回路です。
励磁回路を省略すると簡易計算はできますが、無負荷電流、力率、軽負荷時の電流を正確に扱いにくくなります。
T形等価回路の構成
続いてはT形等価回路の構成を確認していきます。
T形と呼ばれる配置
T形等価回路では、一次側のR1とjX1が入力側から直列に置かれます。
その後の節点から、励磁支路であるRcとjXmの並列回路が分岐します。
さらに回転子の一次換算回路であるR2′÷sとjX2′が直列に接続されます。
分岐した励磁支路と二次側支路を含む形が、文字のTに似て見えることからT形等価回路と呼ばれます。
各素子を配置どおりに扱うことで、入力電流と回転子電流の違いを計算できます。
| 回路要素 | 表す現象 | 主な影響 |
|---|---|---|
| R1 | 固定子巻線の抵抗 | 一次銅損と電圧降下 |
| X1 | 固定子漏れ磁束 | 始動電流と短絡インピーダンス |
| Rc | 鉄損と一部の損失 | 無負荷入力と有効電流 |
| Xm | 主磁束の形成 | 励磁電流と力率 |
| R2′ | 回転子抵抗の一次換算値 | 二次銅損とトルク特性 |
| X2′ | 回転子漏れ磁束の一次換算値 | 始動時および負荷時の電流 |
| R2′÷s | すべりを含む二次側抵抗 | 空隙電力と機械出力 |
近似等価回路との違い
厳密なT形等価回路では、励磁回路が一次直列インピーダンスの後ろに接続されます。
一方、近似等価回路では、一次側の電圧降下が小さいと仮定して、励磁回路を入力端子側へ移す場合があります。
この近似により、回転子電流やトルク計算が簡潔になります。
定格付近の性能見積もりでは実用的な精度が得られることも多いでしょう。
ただし、始動時や大容量機、電圧変動が大きい条件では近似の影響を確認する必要があります。
目的が始動解析なのか、定格効率の確認なのかで、採用すべき回路モデルは変わります。
一次換算の考え方
二次側の回路要素を一次側へ換算すると、すべての量を一次側の電圧基準で扱えます。
巻数比をaとした場合、二次抵抗や二次リアクタンスは概ねaの二乗を掛けて一次側へ換算します。
実務では試験結果から一次換算値として定数が整理されていることも多く、必ずしも巻数比を個別に求める必要はありません。
重要なのは、抵抗とリアクタンス、電圧と電流の換算方向を混在させないことです。
単位は抵抗とリアクタンスがオーム、電圧がボルト、電流がアンペアとなります。
等価回路定数の求め方
続いては等価回路定数の求め方を確認していきます。
直流試験による一次抵抗
固定子巻線の抵抗R1は、直流抵抗測定から求める方法が基本です。
端子間で測定した抵抗値は結線方式によって相抵抗との関係が異なります。
Y結線の端子間抵抗は二相分の巻線抵抗に相当します。
Δ結線では並列経路があるため、そのまま相抵抗として扱うことはできません。
また、銅の抵抗値は温度により変化します。
試験時の巻線温度と基準温度を記録し、必要に応じて温度換算を行うと、銅損や効率の計算精度を高められます。
無負荷試験による励磁定数
無負荷試験では、定格電圧と定格周波数でモーターを無負荷運転し、入力電力P0、電流I0、電圧V0を測定します。
一相当たりの有効電流は、入力電力を三相分の相電圧で割ることで求められます。
全無負荷電流から有効電流成分を差し引くと、励磁電流成分を推定できます。
電圧を有効電流成分で割れば鉄損抵抗の目安となり、電圧を励磁電流成分で割れば励磁リアクタンスの目安となります。
無負荷入力には軸受摩擦や風損も含まれます。
精密な定数を得たい場合は、電圧を段階的に変えた試験結果を利用し、機械損と鉄損を分離して考えます。
拘束試験による漏れインピーダンス
拘束試験では回転子を停止させ、定格電流程度が流れるように低い電圧を加えます。
停止状態ではすべりが一となるため、二次側抵抗はR2′となります。
測定した電圧、電流、電力から、一次抵抗と二次抵抗の合計、一次漏れリアクタンスと二次漏れリアクタンスの合計を推定できます。
拘束試験の一相当たりの基本計算は次の流れです。
インピーダンスZは相電圧を相電流で割った値です。
抵抗成分Rは一相当たりの入力電力を相電流の二乗で割った値です。
リアクタンス成分Xは、Zの二乗からRの二乗を引いた値の平方根で求めます。
拘束試験で得られるリアクタンスは合計値であるため、X1とX2′へ配分する必要があります。
設計情報がない場合には両者を等分する近似もありますが、実機特性に合わせた解析では慎重な扱いが必要です。
試験値から定数を求める際は、結線、周波数、温度、計器の測定位置をそろえることが重要です。
同じ電動機でも試験条件が異なれば、単純比較できない値が生まれます。
計算方法と運転特性
続いては計算方法と運転特性を確認していきます。
入力電流と力率の計算
T形等価回路では、まず励磁支路と二次側支路の合成インピーダンスを求めます。
その合成値に一次側のR1とjX1を加えれば、入力端子から見た全インピーダンスが得られます。
相電圧を全インピーダンスで割ると、複素数としての一次電流を求められます。
一次電流の位相角から力率を計算できます。
誘導電動機は一般に遅れ力率となり、負荷が軽いほど励磁電流の割合が大きいため力率は低下しやすい傾向です。
定格負荷付近では力率が改善し、過負荷域では電流増加による損失が大きくなります。
空隙電力と機械出力
二次側のR2′÷sで消費される電力は、空隙電力に対応します。
空隙電力のうち、すべりsに相当する割合が二次銅損となります。
残りの一からsを引いた割合が、電磁変換された機械出力です。
ここから機械損や漂遊負荷損を差し引くと、軸から取り出せる出力になります。
空隙電力をPgとすると、二次銅損はsPgです。
電磁変換出力は(一−s)Pgです。
軸出力は電磁変換出力から摩擦損、風損、その他の機械損を差し引いて求めます。
すべりが小さいほど二次銅損の比率は低くなります。
ただし、すべりが極端に小さい無負荷状態では、取り出せる軸出力自体も小さくなります。
効率だけでなく、必要なトルクと運転点を合わせて判断することが大切です。
トルクとすべりの関係
誘導電動機のトルクは、二次側へ供給される電力と同期角速度の関係から求められます。
簡易的には、二次抵抗をすべりで割った値と漏れリアクタンスの関係がトルク特性を決めます。
始動時はすべりが一であり、回転子周波数も電源周波数と同じです。
回転速度が上がるとすべりが低下し、回転子周波数も下がります。
最大トルクが現れるすべりは、抵抗成分とリアクタンス成分のバランスで決まります。
始動トルク不足、過大な始動電流、負荷変動時の速度低下を検討する際には、すべりを変数として二次側回路を計算する方法が役立ちます。
誘導電動機の等価回路のまとめ
最後に誘導電動機の等価回路をまとめます。
誘導電動機の等価回路は、固定子、励磁回路、回転子の電気的な働きを抵抗とリアクタンスで表した計算モデルです。
一次側にはR1とX1、励磁支路にはRcとXm、二次側の一次換算回路にはR2′、X2′、R2′÷sを用います。
R2′÷sにすべりを含めることが、変圧器の等価回路と誘導電動機の等価回路を分ける重要なポイントです。
定数は直流試験、無負荷試験、拘束試験を組み合わせて求められます。
得られた定数をT形等価回路へ当てはめれば、電流、力率、損失、効率、トルク、始動特性を体系的に検討できます。
まずは各素子が表す物理現象を理解し、その後にすべりごとの回路計算へ進むと、誘導電動機の特性をより確実に読み解けるでしょう。