残留磁束密度は、磁石や電磁石、モーター、変圧器などを理解するうえで重要な物理量です。
言葉だけを見ると難しく感じるかもしれませんが、磁化した材料に磁場をかけるのをやめた後も、どの程度の磁気が残るのかを表した値と考えると理解しやすいでしょう。
物理基礎では磁束密度や磁界、磁化、電磁誘導など複数の用語が登場します。
その関係を整理すると、残留磁束密度がなぜ永久磁石の性能や鉄心の損失に関係するのかも見えてきます。
この記事では、残留磁束密度の意味、単位、磁束密度との違い、ヒステリシス曲線の見方、材料選びでの考え方まで、順を追って解説します。
残留磁束密度の意味

それではまず残留磁束密度について解説していきます。
磁場を取り去った後に残る磁気の強さ
残留磁束密度とは、磁性体に外部から磁場を加えて磁化させた後、その外部磁場をゼロに戻したときに材料内部へ残る磁束密度のことです。
英語では残留を意味するリマネンスに由来して、remanenceやremnant flux densityと表現されることがあります。
記号では一般にBrが使われます。
たとえば鉄片にコイルで磁場を加え、十分に磁化した状態から電流を止めると、鉄片の周囲にはすぐには磁気が消えずに残ります。
この残った磁気の程度を、磁束密度として数値化したものが残留磁束密度です。
永久磁石が鉄くずを引き付け続けられるのは、外部から電力を与えなくても比較的大きな残留磁束密度を保てるためです。
一方で、変圧器の鉄心のように磁化と消磁が何度も繰り返される部品では、残留磁束密度が大きすぎると扱いにくい場面もあります。
残留磁束密度は、外部磁場がなくなっても材料に残る磁束密度です。
永久磁石では大きい値が性能につながり、交流機器用の軟磁性材料では小さく制御しやすい性質が求められることがあります。
磁区の向きがそろうことで生じる現象
磁性体の内部には、磁気の向きがそろった小さな領域である磁区が存在します。
磁化されていない状態では、多くの磁区がさまざまな方向を向いているため、材料全体としての磁気は目立ちにくくなります。
そこへ磁場を加えると、磁区の境界が動いたり、磁区内の向きが回転したりして、磁場と同じ方向を向く部分が増えていきます。
外部磁場をなくしても、すべての磁区が元の無秩序な状態へ戻るわけではありません。
材料内部の結晶構造、欠陥、応力、粒界などが磁区の動きを妨げるため、一定の向きが保たれます。
この状態が磁気の記憶として残ることが、残留磁束密度の物理的な背景です。
磁石を落としたり加熱したりすると磁力が弱くなることがありますが、これは磁区の向きが乱れて残留磁束密度が減ることと関係しています。
残留磁気との使い分け
残留磁束密度と似た言葉に残留磁気があります。
日常的な説明では、両者がほぼ同じ意味で使われることも少なくありません。
ただし、残留磁気は磁気が残っている現象全体を指す広い表現であり、残留磁束密度はその大きさを磁束密度として扱う技術的な用語です。
測定値や材料データシートを確認する場面では、どの物理量が示されているかを区別する必要があります。
磁束密度の単位であるテスラで示されていれば、残留磁束密度を指している可能性が高いでしょう。
また、磁界の単位であるアンペア毎メートルで示される値は、残留磁化や保磁力など別の量である場合があります。
数値だけで判断せず、記号と単位を一緒に確認することが、磁気特性を正しく読む基本です。
磁束密度との関係
続いては磁束密度との関係を確認していきます。
磁束密度が示すもの
磁束密度は、ある面をどれほど磁束が通り抜けているかを表す量です。
一般にはBという記号で表され、単位にはテスラを用います。
磁場が強い場所ほど、磁力線をイメージしたときの密度が高くなり、磁束密度も大きくなります。
残留磁束密度は、この磁束密度Bのうち、外部磁場をゼロにした時点で残る値です。
つまり磁束密度は広い概念であり、残留磁束密度は磁化の履歴を持つ材料に現れる特定の状態の磁束密度といえます。
磁束密度の基本的な関係は、磁束を面積で割る形で表せます。
B = Φ ÷ A
Bは磁束密度、Φは磁束、Aは磁束が通る面積です。
同じ磁束でも通過する面積が小さければ、磁束密度は大きくなります。
ただし、実際の磁性材料では形状、空隙、周囲の材質、磁化の履歴なども影響するため、この式だけで残留磁束密度を求めることはできません。
材料固有の磁気特性と、磁気回路全体の設計を合わせて考えることが必要です。
磁界と磁化を含めた考え方
磁束密度Bは、外部から加えた磁界Hと、材料内部の磁化Mの影響を受けます。
真空中では磁界と磁束密度の関係が比較的単純ですが、鉄やフェライトのような磁性材料の中では、材料自身の磁化が大きく関わります。
物理の表現では、Bは真空の透磁率と磁界、磁化を組み合わせて説明されます。
磁性体を含む場合の代表的な表し方です。
B = μ₀H + μ₀M
μ₀は真空の透磁率、Hは磁界、Mは磁化を表します。
外部磁場を取り去ってHがゼロになっても、Mが残ればBも残るため、残留磁束密度が生じます。
この関係から、残留磁束密度は単に外から与えた磁場の名残ではなく、材料内部の磁化状態を反映する量だとわかります。
HがゼロでもBがゼロとは限らないことが、残留磁束密度を理解する大切なポイントです。
学校の問題では、外部磁場を切った後の磁石の状態を考える問いとして出題されることがあります。
その際は、磁界と磁束密度を同じものとして扱わないよう注意しましょう。
透磁率だけでは決まらない理由
磁性材料を調べると、透磁率が高いほど磁気性能が高いように感じるかもしれません。
透磁率は磁界を加えたときに磁束密度がどれだけ生じやすいかを示す性質であり、磁気回路を作るうえで重要な指標です。
しかし、透磁率が高い材料が必ずしも高い残留磁束密度を持つわけではありません。
軟磁性材料は小さな磁界で磁化しやすい反面、磁界をなくすと磁化が抜けやすい傾向があります。
反対に硬磁性材料は磁化の向きを変えにくく、強い磁石として使いやすい性質を持ちます。
用途によって求められる性質は異なるため、透磁率、残留磁束密度、保磁力をまとめて見ることが大切です。
モーター用の永久磁石では残留磁束密度と保磁力のバランスが重視され、変圧器の鉄心では損失の小ささや透磁率がより重視されます。
単位と記号の基礎
続いては単位と記号の基礎を確認していきます。
テスラによる表記
残留磁束密度の国際単位系における単位は、テスラです。
テスラは記号でTと書きます。
たとえば残留磁束密度が1.2Tと示されている場合、外部磁場をゼロにした状態でも、材料に関連する磁束密度が1.2テスラ程度残る特性を示します。
永久磁石のカタログでは、Brがテスラまたはミリテスラで記載されることが一般的です。
値の大きさは材料の種類、磁化の方向、測定条件、温度、形状によって変わります。
そのため、異なる製品の値を比較するときは、同じ条件で測定されたデータかどうかを確認する必要があります。
| 項目 | 主な記号 | 代表的な単位 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 磁束密度 | B | T | 磁場中の磁束の密度 |
| 残留磁束密度 | Br | T | 外部磁場をゼロにした後に残る磁束密度 |
| 磁界 | H | A/m | 外部から加える磁場の強さ |
| 磁化 | M | A/m | 材料内部の磁気モーメントの集まり |
| 保磁力 | Hc | A/m | 残った磁化を打ち消すのに必要な逆向き磁界の目安 |
| 磁束 | Φ | Wb | 面を通る磁気の総量 |
ガウスとテスラの換算
古い資料や磁石関連の資料では、ガウスという単位を見かけることがあります。
ガウスはCGS単位系で使われる磁束密度の単位です。
テスラとの関係を知っておくと、海外製品や過去の技術資料を読むときに便利でしょう。
テスラとガウスの換算です。
1T = 10000G
1000G = 0.1T
たとえば12000Gの残留磁束密度は、1.2Tとして読み替えられます。
単位換算そのものは単純でも、残留磁束密度と表面磁束密度を取り違えないことが重要です。
表面磁束密度は、実際の磁石の表面付近で測った磁束密度です。
磁石の厚み、幅、着磁方向、測定位置、周囲の金属の有無によって大きく変化します。
一方のBrは、主として材料の磁気特性を表す値です。
材料カタログのBrと、ガウスメーターで測った表面値は同じ数値ではないと覚えておくと、誤解を避けられます。
物理基礎で押さえたい用語
物理基礎では、磁界、磁束密度、電流が作る磁場、電磁誘導などが学習の中心になります。
残留磁束密度は発展的な用語として扱われることもありますが、磁石がなぜ磁石として残るのかを説明する際に役立ちます。
磁束密度は磁場の状態を表す量であり、コイルに電流を流すとその周囲に磁場が生じます。
鉄心をコイルに入れると磁束密度が大きくなりやすく、電磁石の力も強くなります。
その後に電流を止めても鉄心に磁気が残る場合があり、その程度を考える言葉が残留磁束密度です。
実験でクリップが電磁石に吸い付いたままになる現象も、残留磁気として説明できます。
ただし、磁石の強さを比べる問題では、磁力の大きさだけでなく、距離や形状による影響もあるため、単純にBrだけで結論を出すことはできません。
ヒステリシス曲線の見方
続いてはヒステリシス曲線の見方を確認していきます。
磁化の履歴を示す曲線
ヒステリシス曲線は、磁界Hを変化させたときに磁束密度Bがどのように変化するかをグラフで表したものです。
横軸に磁界、縦軸に磁束密度を取ると、磁化と消磁の過程で閉じた輪のような形が現れます。
この輪の形状は、材料が過去に受けた磁場の影響を残すことを示しています。
ヒステリシスとは、現在の状態が現在の入力だけでなく、過去の履歴にも左右される性質を意味します。
磁性材料では、磁界を増やす道筋と減らす道筋が一致しません。
その差があるからこそ、外部磁界をゼロにしても磁束密度が残ります。
ヒステリシス曲線の縦軸と横軸を先に確認することが、グラフ問題を読み解く近道です。
Brと保磁力の位置
未磁化の材料に正の向きの磁界を加えると、磁束密度は増えていきます。
十分に大きな磁界を加えると、材料内の磁区の多くがそろい、磁束密度は飽和に近づきます。
そこから磁界Hを徐々にゼロへ戻したとき、縦軸上に残る値が残留磁束密度Brです。
さらに逆向きの磁界を加えると、残っていた磁束密度が小さくなります。
磁束密度がゼロになるまでに必要な逆向き磁界の大きさが、保磁力に関係します。
| 曲線上の状態 | 磁界の状態 | 磁束密度の状態 | 読み取れる性質 |
|---|---|---|---|
| 飽和付近 | 大きな磁界を加えた状態 | 増加が緩やか | 磁区がほぼそろった状態 |
| 残留点 | 磁界がゼロ | Brが残る | 磁気の残りやすさ |
| 保磁力付近 | 逆向き磁界を加える | 磁束密度がゼロへ近づく | 消磁への抵抗 |
| 逆方向の飽和付近 | 大きな逆向き磁界 | 逆向きに飽和 | 磁化方向の反転 |
残留磁束密度が大きくても、保磁力が小さければ外部の磁場や衝撃で磁化状態が変わりやすい場合があります。
永久磁石として安定して使うには、Brだけでなく保磁力も重要な比較項目です。
Brは磁界をゼロにしたときの縦軸の値です。
保磁力は磁束密度をゼロへ戻すために必要な逆向き磁界に関わる値であり、両者は役割が異なります。
曲線の面積とヒステリシス損失
ヒステリシス曲線で囲まれた面積は、磁化と消磁を一往復させたときに熱として失われるエネルギーに関係します。
これをヒステリシス損失と呼びます。
交流電源で動く変圧器やモーターの鉄心では、磁化の向きが短時間に何度も変わります。
そのため、ヒステリシス損失が大きい材料を使うと発熱が増え、効率の低下につながります。
軟磁性材料は一般にヒステリシス曲線の幅が狭く、磁化と消磁を繰り返しやすい性質を持ちます。
硬磁性材料は曲線の幅が広く、磁化の向きを変えにくいため永久磁石に向いています。
広い曲線は磁石としての粘り強さに関係し、狭い曲線は交流機器での扱いやすさに関係すると整理すると理解しやすいでしょう。
材料別の特性と用途
続いては材料別の特性と用途を確認していきます。
硬磁性材料と永久磁石
硬磁性材料は、一度磁化されると磁化の向きが変わりにくい材料です。
残留磁束密度と保磁力が比較的大きく、永久磁石の材料として利用されます。
代表的なものにはネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石などがあります。
ネオジム磁石は小型でも強い磁力を得やすく、モーター、発電機、スピーカー、固定具、各種センサーに広く使われています。
サマリウムコバルト磁石は高温環境での安定性が求められる用途で検討されることがあります。
フェライト磁石は比較的安価で耐食性にも配慮しやすく、家電製品や日用品に使われる身近な材料です。
材料の選定では、残留磁束密度だけでなく、耐熱性、耐食性、加工性、価格、供給状況まで確認する必要があります。
永久磁石では、残留磁束密度が大きいほど強い磁場を作りやすくなります。
ただし、実際の磁力は磁石の形状や寸法、磁気回路、使用温度によっても変わります。
軟磁性材料と電磁機器
軟磁性材料は、磁化されやすく消磁もされやすい材料です。
電磁石、変圧器、リレー、インダクタ、モーターの鉄心など、磁場をオンとオフしたり方向を変えたりする機器で活躍します。
代表例には電磁鋼板、純鉄、パーマロイ、軟磁性フェライトなどがあります。
交流で使用する鉄心では、残留磁束密度が残りすぎると磁気回路の初期状態に影響する場合があります。
また、ヒステリシス損失や渦電流損失を抑えることも重要です。
電磁鋼板を薄い板として積み重ねる構造は、渦電流が流れにくくするための工夫です。
磁気を残すことが良い場合と、素早く消えることが良い場合がある点は、磁性材料を学ぶうえで見逃せません。
磁気記録と残留磁束密度
残留磁束密度は、磁気記録の分野でも重要な考え方です。
磁気テープ、ハードディスク、磁気カードなどでは、磁性体の小さな領域に異なる向きの磁化を残し、情報として利用します。
記録した情報を長く保つには、外部の磁場や温度変化の影響を受けにくいことが求められます。
そのため、十分な保磁力を持ち、磁化状態を安定させられる材料設計が必要になります。
一方で、書き込み時には磁化の向きを変えなければならないため、強すぎる保磁力だけが理想とは限りません。
記録密度、書き込み装置の能力、耐久性、読み取り感度などを含めたバランスで材料が選ばれます。
残留磁束密度は、目に見えない情報が材料に保持される仕組みを考える入口にもなる物理量です。
測定時の注意点
続いては測定時の注意点を確認していきます。
表面磁束密度と材料特性の違い
磁石の表面をガウスメーターやテスラメーターで測定すると、表面磁束密度を確認できます。
この値は、磁石が実際に作っている磁場の目安として役立ちます。
しかし、表面磁束密度は残留磁束密度Brそのものではありません。
測定位置が少し変わるだけでも値が変動し、磁石の角付近、中央部、空間中では測定結果が異なります。
さらに、センサーの向きが磁場の方向とずれると、正しい値を得にくくなります。
材料の性能比較を行うなら、メーカーの磁気特性表に記載されたBrや保磁力を確認する方法が適しています。
製品状態の確認なら、決められた測定位置と測定治具を用いて表面磁束密度を比較するとよいでしょう。
温度と経年変化の影響
磁石の特性は温度によって変化します。
一般に温度が上がると磁力が低下し、残留磁束密度も変化する傾向があります。
材料によっては、冷却後にある程度回復する可逆的な変化と、加熱によって磁化が戻らなくなる不可逆的な変化があります。
高温で使用するモーターやセンサーでは、使用温度範囲を超えないように設計することが重要です。
強い逆磁場を受けた場合にも、永久磁石は部分的に減磁することがあります。
カタログ上のBrは標準条件の値であり、実使用環境で常に同じ値を保つとは限りません。
長期間の安定性が必要な用途では、温度試験、振動試験、耐湿試験、減磁試験などを行って評価します。
測定条件のそろえ方
残留磁束密度を正確に評価するには、測定条件をそろえる必要があります。
材料試験では、試料の形状や寸法、着磁方法、測定装置、温度、磁場の加え方が結果に影響します。
特に磁性材料は形状による自己減磁の影響を受けるため、単純な試験片の測定値を実製品へそのまま当てはめることはできません。
磁気特性の評価には、BとHの関係を測る装置や、規定の磁気回路を用いる測定方法が採用されます。
測定結果を記録する際には、単位、試料名、着磁方向、測定日、温度、装置名を残しておくと比較しやすくなります。
品質管理では、測定の再現性を高めるため、センサーの固定位置や判定基準を標準化することも欠かせません。
表面磁束密度の比較測定では、次の条件をできるだけ固定します。
測定する位置、センサーの向き、磁石の置き方、周囲の金属部品、測定時の温度です。
条件が変われば数値も変わるため、単発の値よりも同条件での比較を重視します。
残留磁束密度のまとめ
残留磁束密度とは、磁性材料に磁場を加えた後、外部磁場をゼロにしても残る磁束密度を表す物理量です。
記号はBr、単位はテスラが基本となります。
磁束密度Bが磁場の状態を広く表すのに対し、残留磁束密度は材料が持つ磁化の履歴に関わる値です。
ヒステリシス曲線では、磁界Hをゼロにしたときに縦軸へ残る値として読み取れます。
Brが大きいことは永久磁石にとって有利な特徴ですが、変圧器や電磁石の鉄心では、磁化と消磁のしやすさや損失の小ささも重要になります。
また、残留磁束密度と表面磁束密度は同じものではありません。
磁石の実測値を見るときは、測定位置、温度、センサーの向き、周囲の環境まで確認することが大切です。
磁束密度、磁界、磁化、保磁力をそれぞれ区別できるようになると、物理基礎の理解だけでなく、モーターやセンサー、磁気記録、材料選定に関する知識も深まるでしょう。