工場や製造現場でモーターを安全に動かすために欠かせない保護機器、それがサーマルリレーです。
モーターが過負荷状態になると、コイルや巻線が熱によってダメージを受け、最悪の場合は焼損や火災につながることもあります。
そのような事態を未然に防ぐのがサーマルリレーの役割であり、適切な設定を行うことが機器の長寿命化や安全確保に直結します。
しかし、「サーマルリレーの設定方法がよくわからない」「電流値の合わせ方に自信がない」というお声は、現場でも非常に多く聞かれます。
本記事では、サーマルリレーの設定方法をはじめ、整定電流の考え方、トリップ動作の仕組み、設定時の注意点まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
電気工事士の方や設備管理の担当者はもちろん、これからサーマルリレーを扱う方にもお役立ていただける内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
サーマルリレーの設定方法は整定電流をモーターの定格電流に合わせることが基本
それではまず、サーマルリレーの設定方法における最も重要な基本概念について解説していきます。
サーマルリレーの設定方法は?という疑問に対する結論からお伝えすると、整定電流をモーターの定格電流に合わせることが基本中の基本です。
整定電流とは、サーマルリレーがトリップ(回路遮断)動作を行う電流値の基準となる設定値のことを指します。
この値をモーターの定格電流に正しく合わせることで、過電流が流れた際に確実に保護動作が働く仕組みです。
設定値がずれると保護が効かなかったり、逆に誤トリップが頻発したりと、どちらの方向にずれても現場に支障をきたします。
だからこそ、設定の基本をしっかり理解した上で作業に臨むことが大切です。
サーマルリレーの設定の基本ルール:整定電流 = モーターの定格電流(銘板に記載された値)
設定値がずれると、保護が効かなかったり、誤トリップが頻発したりする原因になります。
必ずモーターの銘板を確認し、使用電圧に対応した定格電流値を基準に設定してください。
整定電流とは何か
整定電流とは、サーマルリレーのダイヤルで設定する電流値であり、この値を超える電流が一定時間以上流れ続けた場合にトリップ動作が発生します。
サーマルリレー本体には調整用のダイヤルやスケールが設けられており、そこに記載された数値が整定電流の範囲を示しています。
たとえば「4〜6A」と表示されたサーマルリレーであれば、ダイヤルを回すことで4Aから6Aの範囲で整定電流を設定できます。
モーターの銘板(ネームプレート)に記載された定格電流値をまず確認することが、設定作業の出発点です。
銘板には「FLA(Full Load Ampere)」や「定格電流:〇A」といった表記があり、この値が整定電流の基準となります。
整定電流の概念をしっかり把握しておくことで、設定作業全体の流れが格段にスムーズになるでしょう。
また、整定電流は「設定した電流値を超えたら即座にトリップする」のではなく、超過した時間と電流の大きさに応じてトリップする「反限時特性」を持っている点も重要な知識です。
この反限時特性についてはのちほど詳しく説明しますが、まずはモーターの定格電流に合わせることが大前提であることを頭に入れておきましょう。
定格電流の確認方法
モーターの定格電流は、モーター本体に取り付けられた銘板(ネームプレート)で確認するのが最も確実な方法です。
銘板には、定格電圧・定格電流・出力(kW)・回転数(rpm)・力率・効率などの基本情報が記載されています。
もし銘板が読み取れない場合や、銘板が劣化・欠損している場合は、モーターのメーカーや型番から仕様書を取り寄せて確認しましょう。
【銘板の読み方の例】
出力:3.7kW 電圧:200V 電流:18A 周波数:50Hz 回転数:1450rpm
この場合、整定電流は18Aに合わせることが基本となります。
また、モーターが三相200Vなのか三相400Vなのかによっても定格電流の値が変わりますので、使用電圧も必ず確認しておきましょう。
電圧が異なると電流値は大きく変わるため、誤った電圧を前提に設定するとトラブルの原因になります。
現場で電流計(クランプメーター)を使って実測電流を確認し、銘板の値と照合することも有効な確認手段です。
銘板の値と実測値に大きなズレがある場合は、モーターや負荷側に問題がある可能性があるため、設定前に原因を調査することをおすすめします。
整定電流の設定ダイヤルの読み方
サーマルリレーには、前面に整定電流を調整するためのダイヤルが付いており、ドライバーなどで回して設定します。
ダイヤルの周囲にはスケール(目盛り)が印刷されており、矢印やポインタが指している数値が現在の整定電流を示しています。
ダイヤルの目盛りはメーカーや機種によって異なるため、必ず取扱説明書や仕様書を参照しながら設定することが重要です。
また、ダイヤルを回しすぎてスケールの端を超えないよう注意が必要です。
無理に回すと内部機構にダメージを与える可能性があるため、設定範囲内で正確に合わせましょう。
目盛りが細かい場合は、ルーペなどを活用して正確な位置を確認することもひとつの工夫です。
設定後は振動などで値がずれることもあるため、定期点検時に目視確認を行う習慣をつけておくとよいでしょう。
| 整定電流の範囲(例) | 対応するモーター出力の目安(200V・三相) | 用途例 |
|---|---|---|
| 0.35〜0.5A | 0.1kW以下 | 小型ポンプ・ファン |
| 1〜1.6A | 0.2〜0.4kW | コンベア・攪拌機 |
| 4〜6A | 0.75〜1.5kW | 工作機械・コンプレッサー |
| 9〜13A | 2.2〜3.7kW | 大型ポンプ・送風機 |
| 18〜25A | 5.5〜7.5kW | 大型コンプレッサー |
上表はあくまで目安であり、実際のモーターの銘板電流値を優先して設定することが大切です。
機種や負荷の種類によって適切な整定範囲は変わるため、メーカーのカタログや選定表も積極的に活用してください。
サーマルリレーの仕組みとトリップ動作を理解しよう
続いては、サーマルリレーがどのような仕組みで動作しているのかを確認していきます。
設定方法を正しく理解するためには、内部の動作原理を把握しておくことが非常に役立ちます。
仕組みを知ることで、なぜ整定電流を正確に合わせなければならないのかも、自然と理解できるようになるでしょう。
バイメタルの熱動作原理
サーマルリレーの中核部品はバイメタルと呼ばれる金属片です。
バイメタルとは、熱膨張率の異なる2種類の金属を張り合わせた構造の部品で、温度が上昇すると湾曲する性質を持っています。
モーターに過電流が流れると、サーマルリレー内部のヒーター(電熱線)が発熱し、バイメタルが加熱されます。
バイメタルが一定温度を超えて湾曲すると、トリップ機構が動作して接点が開き、回路を遮断する仕組みです。
この動作は機械的かつシンプルであるため、電源が不要で信頼性が高いという大きなメリットがあります。
バイメタル式の構造は長年にわたって改良が重ねられており、現在も多くの産業現場で標準的に使用されている実績ある技術です。
シンプルな構造ゆえに、故障リスクも比較的低く、長期間にわたって安定した保護性能を発揮します。
サーマルリレーはバイメタルの熱変形を利用した保護機器です。
電流が大きいほど発熱量が増し、短時間でトリップします。電流が小さい場合は発熱が少なく、トリップまでの時間が長くなります。
この「反限時特性」がモーター保護に適しており、起動時の突入電流では誤トリップせず、長時間の過負荷では確実に保護が働きます。
トリップ動作とリセット方法
トリップとは、過電流や過熱によってサーマルリレーの接点が開き、モーターへの電力供給を遮断する動作のことです。
トリップが発生すると、サーマルリレー前面のトリップ表示ボタン(赤色など)が飛び出して、異常が発生したことを視覚的に知らせます。
トリップ後にモーターを再起動するには、まず過電流の原因を調査・解消した上で、リセット操作を行う必要があります。
リセット方法には「手動リセット」と「自動リセット」の2種類があり、設定によって切り替えが可能な機種もあります。
手動リセットは、トリップ後に作業者がリセットボタンを押すことで復帰する方式で、安全確認が取れた後に再起動できるため、一般的な産業機器で多く採用されています。
自動リセットは、バイメタルが冷却されると自動的に接点が閉じる方式で、遠隔地にある設備や無人環境での使用に向いています。
ただし、自動リセット設定の場合は冷却後に自動で再起動するため、安全管理の観点から運用ルールをしっかり定めておくことが重要です。
トリップ後は必ず原因究明を行い、再発防止策を講じてからリセット・再起動するという手順を徹底しましょう。
反限時特性とは何か
サーマルリレーの動作特性として重要なのが反限時特性(インバース・タイム特性)です。
反限時特性とは、電流が大きいほど短い時間でトリップし、電流が小さいほどトリップまでの時間が長くなる特性を指します。
この特性はモーターの熱的保護に非常に適しており、起動時の突入電流(瞬間的に流れる大電流)では誤トリップせず、長時間の過負荷運転では確実に保護が働くという挙動を実現しています。
【反限時特性の例】
整定電流の120%の電流 → 数分〜数十分後にトリップ
整定電流の200%の電流 → 数十秒〜数分後にトリップ
整定電流の600%の電流 → 数秒以内にトリップ
(メーカー・機種により異なります)
起動電流は定格電流の5〜8倍に達することがありますが、その時間は数秒程度であるため、反限時特性によって誤動作を防いでいます。
この特性を理解しておくことで、サーマルリレーが「なぜすぐにトリップしないのか」「なぜ長時間の過負荷には反応するのか」が明確になるでしょう。
反限時特性は、モーターを過度に保護しすぎることなく、実際に危険な状態だけを検知するための巧妙な仕組みといえます。
サーマルリレーの設定手順を具体的にステップで確認しよう
続いては、実際のサーマルリレーの設定手順をステップごとに確認していきます。
手順を正しく踏まえることで、設定ミスによるトラブルを防ぎ、安全で確実な設備運用が実現できます。
初めて設定を行う方も、この流れに沿って進めていただければスムーズに作業できるでしょう。
ステップ1:モーターの定格電流を確認する
設定作業の最初のステップは、モーターの定格電流を正確に把握することです。
モーター本体の銘板を確認し、使用電圧における定格電流値を読み取ります。
三相200V仕様と三相400V仕様では電流値が異なるため、実際に使用する電圧に対応した電流値を確認しましょう。
銘板が読み取れない場合は、メーカーのカタログや仕様書から型番を検索して電流値を特定します。
また、現場で電流計を使って実際の運転電流を計測し、銘板値と照合することも有効な確認方法の一つです。
複数台のモーターが並んでいる場合は、それぞれの定格電流を混同しないよう、タグや記録で管理することをおすすめします。
| 確認項目 | 確認場所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 定格電流値 | モーター銘板 | 使用電圧に対応した値を読む |
| 使用電圧 | モーター銘板・回路図 | 200Vと400Vで電流値が異なる |
| モーターの出力(kW) | モーター銘板 | サーマルリレーの適用範囲の確認に使用 |
| 起動方式 | 回路図・制御盤図面 | 直入れ・スターデルタなどで考え方が変わる |
ステップ2:サーマルリレーの機種選定と適用範囲の確認
次に、使用するサーマルリレーの機種が対象モーターの定格電流をカバーしているかを確認します。
サーマルリレーには整定電流の範囲が製品ごとに定められており、モーターの定格電流がその範囲内に収まる機種を選ぶことが大原則です。
たとえば定格電流が18Aのモーターには、整定電流範囲が「14〜22A」や「18〜25A」のサーマルリレーを選定します。
定格電流が整定範囲の中央付近に来るよう選定すると、ダイヤル調整の余裕が生まれて使いやすくなります。
また、三菱電機・富士電機・オムロン・シュナイダーなど、主要メーカーの製品カタログには選定表が掲載されているため、積極的に活用しましょう。
既設の電磁接触器に取り付けるタイプのサーマルリレーの場合は、接触器との適合性(直結型か別置型かなど)も確認が必要です。
ステップ3:整定電流ダイヤルを正しく設定する
機種の確認ができたら、いよいよ整定電流ダイヤルの設定を行います。
まず、サーマルリレーのダイヤルを確認し、モーターの定格電流値に対応する目盛りにポインタを合わせます。
ダイヤルはドライバー(マイナスまたはプラス)を使用して回すのが一般的ですが、機種によっては指で直接回せるタイプもあります。
整定電流の設定は、原則としてモーターの定格電流値ちょうどに合わせます。
ただし、負荷変動が大きい機器や環境温度が高い場所では、メーカー資料を確認し、設備条件に応じて適切な補正を行う必要があります。
設備の特性に応じた柔軟な調整が、現場での安定運用につながります。
設定後は目盛りを再確認し、ポインタが正しい位置を指していることを目視でチェックしましょう。
ダイヤルの設定値は振動などでずれることがあるため、定期的な点検時にも確認することをおすすめします。
設定完了後は、実際にモーターを試運転し、正常に動作することを確認してから本運用に移行しましょう。
サーマルリレーの設定時に注意すべきポイントと失敗しやすいケース
続いては、サーマルリレーの設定時に特に注意が必要なポイントや、現場でよく見られる失敗事例を確認していきます。
正しい設定値を把握していても、周辺条件を見落とすことでトラブルが発生するケースは少なくありません。
ここでしっかりと注意点を押さえておくことで、より確実な保護機能を発揮させることができます。
周囲温度による補正の必要性
サーマルリレーはバイメタルの熱変形を利用しているため、周囲温度の影響を受けやすいという特性があります。
高温環境では、モーターに過電流が流れていなくてもバイメタルが加熱されてトリップしやすくなるため、整定電流を若干高めに設定する補正が必要になることがあります。
逆に低温環境では、バイメタルが冷えているためにトリップしにくくなり、保護が遅れるリスクもあります。
一般的なサーマルリレーの周囲温度規格は0〜40℃程度ですが、40℃を超える高温環境では補正係数を用いた計算が必要です。
【周囲温度補正の目安(メーカー仕様書を参照のこと)】
周囲温度20℃ → 整定電流の105%程度まで流れてもトリップしにくい場合あり
周囲温度40℃ → 定格通りの動作
周囲温度50℃ → 整定電流の90〜95%程度でトリップする場合あり
(具体的な補正値はメーカーの温度特性曲線を確認してください)
制御盤内の温度管理も重要で、盤内の換気・冷却対策を怠ると、サーマルリレーの誤動作につながります。
特に夏場は外気温の上昇に伴い盤内温度が大幅に上がるケースがあるため、季節ごとの点検も効果的です。
スターデルタ起動時の設定の考え方
大型モーターではスターデルタ(Y-Δ)起動方式が採用されることがあり、この場合のサーマルリレーの設定には特別な考慮が必要です。
スターデルタ起動では、モーターの各巻線に流れる電流(線電流の1/√3)をサーマルリレーが検出する配線構成が一般的です。
この場合、整定電流はモーターの定格電流の58%(1/√3≒0.577)程度に設定するのが基本的な考え方です。
【スターデルタ起動時の整定電流計算例】
モーター定格電流:30A
整定電流 = 30A × 0.577 ≒ 17.3A → 約17〜18Aに設定
(配線方法や機種によって異なるため、必ずメーカー資料を確認してください)
スターデルタ起動時の設定を直入れ起動と同じように行うと、保護が不十分になる恐れがあります。
回路図や制御システムの仕様を必ず確認した上で設定しましょう。
スターデルタ起動の途中でサーマルリレーが誤トリップする場合は、切り替えタイミングの電流変動が原因である場合もあるため、シーケンス設計の見直しも検討が必要です。
誤トリップが多い場合の対処法
設定を正しく行ったにもかかわらず、頻繁にトリップが発生する場合は、以下のような原因が考えられます。
まず確認すべきは実際の運転電流が定格電流を超えていないかという点です。
クランプメーター(電流計)を使って三相それぞれの電流値を計測し、銘板の定格電流と比較します。
負荷が増大している場合は機械的な問題(軸受の劣化、詰まりなど)が原因であることが多く、まずは機械側の点検を行うことが重要です。
また、電源電圧のアンバランス(三相不平衡)によって特定の相に過電流が流れている場合もあるため、電圧の計測も同時に行うと良いでしょう。
| 誤トリップの原因 | 確認方法 | 対処法 |
|---|---|---|
| 負荷の増大 | クランプメーターで電流計測 | 機械側の点検・負荷軽減 |
| 高温環境による影響 | 盤内温度計測 | 換気・冷却対策・補正設定 |
| 三相不平衡 | 各相電圧の計測 | 電源系統の点検・改善 |
| 設定値が低すぎる | 整定ダイヤルの確認 | 定格電流に合わせて再設定 |
| サーマルリレーの劣化 | 動作特性の確認・比較 | 新品への交換 |
いずれの場合も、安易に整定電流を上げて対処するのは危険です。
根本原因を特定してから対処することが、安全な設備運用につながります。
繰り返しトリップが発生する設備は、定期的なメンテナンスと合わせて動作記録を残しておくと、原因分析に役立ちます。
まとめ
本記事では、サーマルリレーの設定方法は?というテーマに沿って、整定電流の基本概念から設定手順、注意点、機器の種類と選び方まで幅広く解説してきました。
サーマルリレーの設定において最も重要なのは、モーターの定格電流を正確に把握し、整定電流ダイヤルを適切な値に合わせることです。
バイメタルの熱動作原理と反限時特性を理解することで、なぜ正確な設定が必要なのかもクリアになったかと思います。
また、周囲温度の影響やスターデルタ起動時の特別な設定、誤トリップの原因と対処法など、現場で役立つ知識も合わせてご紹介しました。
サーマルリレーは正しく設定・使用することで、モーターの焼損防止や設備の長寿命化に大きく貢献する機器です。
定期的な整定値の確認やトリップ記録の管理も行いながら、安全で安定した設備運用を目指していきましょう。
設定に迷った際はメーカーの技術資料や仕様書を必ず参照し、不明な点は専門家や電気工事士に相談することもおすすめです。
サーマルリレーへの正しい理解と適切な設定が、現場の安全と生産性向上の第一歩となるでしょう。