工場やプラント、電力インフラなどを支える制御システムを狙ったサイバー攻撃が、近年急速に増えています。
こうした攻撃は情報漏えいだけでなく、生産ラインの停止やインフラの機能不全といった深刻な被害につながることがあります。
そこで注目されているのがOTセキュリティという考え方です。
OTセキュリティの対策は?必要性や課題も解説!というテーマのとおり、本記事ではOTセキュリティの基本から具体的な対策、そして直面しやすい課題まで幅広く解説していきます。
脆弱性や不正アクセス、制御システムを取り巻くリスクについても丁寧に触れていきますので、これからOT分野のセキュリティ強化に取り組みたい方はぜひ参考にしてください。
OTセキュリティ対策の結論、何から始めるべきか
それではまず、OTセキュリティ対策の結論的なポイントについて解説していきます。
結論から言うと、OTセキュリティ対策で最初に取り組むべきは資産の可視化とリスクの棚卸しです。
自社にどのような制御システムが存在し、どこにどんな脆弱性があるのかを把握しなければ、有効な対策は打てません。
次に重要なのが、ネットワークの分離とアクセス制御の強化です。
ITネットワークとOTネットワークを適切に分けることで、不正アクセスの侵入経路を大幅に減らすことができます。
さらに、監視体制の構築とインシデント対応計画の策定も欠かせません。
資産の可視化から始める理由
制御システムは長年運用され続けることが多く、管理台帳が古いままというケースが少なくありません。
把握できていない機器は、パッチ未適用のまま放置されがちです。
結果として、そこが攻撃者にとって格好の侵入口になってしまいます。
まずは現状を正確に把握することが、すべての対策の土台になるでしょう。
ネットワーク分離の考え方
OTネットワークをITネットワークから物理的または論理的に分離することは基本中の基本です。
ファイアウォールやDMZを活用し、通信経路を必要最小限に絞り込みます。
これにより、たとえITシステムが侵害されても、OT側への被害拡大を防ぎやすくなります。
監視とインシデント対応の重要性
異常な通信やアクセスをリアルタイムで検知できる仕組みは不可欠です。
攻撃を完全に防ぎきることは難しいため、早期発見と迅速な対応が被害を最小限に抑える鍵となります。
インシデント発生時の連絡体制や復旧手順を事前に整えておくことも忘れてはいけません。
OTセキュリティとは何か、ITセキュリティとの違い
続いては、OTセキュリティの基本と、ITセキュリティとの違いについて確認していきます。
OTとはオペレーショナルテクノロジーの略で、工場の生産設備や発電所、上下水道などを制御するシステムを指します。
具体的には産業制御システム(ICS)やSCADA、PLCなどが該当します。
一方でITはインフォメーションテクノロジーの略で、私たちが普段業務で使うパソコンやサーバー、業務システムなどを指す言葉です。
両者は似ているようで、セキュリティ上の優先順位が大きく異なります。
ITセキュリティでは機密性、完全性、可用性の順で重視されることが一般的です。
これに対しOTセキュリティでは、可用性、完全性、機密性の順に優先されることが多いとされています。
制御システムは止まることが許されないため、可用性が最優先になるのです。
ITとOTで異なる稼働環境
ITシステムは比較的更新サイクルが短く、数年でリプレースされることも珍しくありません。
一方でOTシステムは十年以上稼働し続けることも多く、レガシーなOS上で動いている機器も存在します。
そのため、最新のセキュリティパッチを適用できないケースが多く見られるでしょう。
停止できないというOT特有の制約
工場のラインや発電設備は、点検のために簡単に止められません。
セキュリティ更新のためだけにシステムを停止することが、業務上大きな損失につながることもあります。
この制約こそが、OTセキュリティ対策を難しくしている大きな要因のひとつです。
IT/OT融合が生むリスク
近年はDXの流れの中で、ITとOTのネットワークを連携させる動きが加速しています。
生産データをクラウドで分析したり、遠隔から設備を監視したりする仕組みは業務効率化に役立ちます。
しかしその反面、これまで外部から隔離されていたOT環境が、インターネット経由の攻撃にさらされやすくなっているのです。
OTセキュリティの必要性が高まっている背景
続いては、OTセキュリティの必要性が高まっている背景について確認していきます。
まず挙げられるのが、制御システムを標的にしたサイバー攻撃の増加です。
電力や水道、製造業などの重要インフラを狙った攻撃は、社会に与える影響が非常に大きいものです。
攻撃者にとっても、身代金を要求しやすい標的として認識されつつあります。
重要インフラを狙う攻撃の増加
過去には、海外の電力会社が攻撃を受け大規模な停電が発生した事例も報告されています。
国内でも、工場の生産ラインがランサムウェアの被害を受け、稼働停止に追い込まれたケースがあります。
こうした事例は、決して他人事ではないでしょう。
サプライチェーン全体へのリスク波及
一つの企業の被害が、取引先や関連企業にまで連鎖することも少なくありません。
部品供給が止まれば、サプライチェーン全体の生産活動に影響が及びます。
自社だけでなく、取引先も含めたセキュリティ対策の重要性が増しているのです。
法規制やガイドラインの整備
経済産業省をはじめとする関係省庁も、OTセキュリティに関するガイドラインの整備を進めています。
重要インフラ事業者には、一定水準のセキュリティ対策が求められる流れが強まっているでしょう。
取引先から対策状況の報告を求められるケースも増えてきました。
OTセキュリティにおける代表的なリスクと脆弱性
続いては、OTセキュリティにおける代表的なリスクと脆弱性について確認していきます。
制御システム特有の脆弱性を理解することは、対策を考えるうえで欠かせません。
以下の表に、代表的なリスクと具体的な内容をまとめました。
| リスクの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 不正アクセス | 脆弱な認証情報や外部接続機器を経由した侵入 |
| マルウェア感染 | USBメモリや保守用PC経由でのウイルス侵入 |
| レガシー機器の脆弱性 | 古いOSやファームウェアの未更新による脆弱性 |
| 内部不正 | 従業員や委託業者による意図的または過失による操作 |
| サプライチェーン攻撃 | 取引先や機器ベンダー経由での侵入 |
不正アクセスによる制御システムの乗っ取り
制御システムの中には、初期設定のパスワードのまま運用されている機器も存在します。
こうした甘い認証管理は、不正アクセスを許す大きな原因となります。
攻撃者に制御権限を奪われれば、設備の誤作動や停止など重大な事態を招きかねません。
レガシーシステムに潜む脆弱性
長期間運用されている制御システムは、開発元のサポートが終了しているケースも多いものです。
サポート切れのOSには既知の脆弱性が残ったままになっていることがあります。
攻撃者はこうした脆弱性を狙って侵入を試みるのです。
USBメモリなど外部接続機器のリスク
OTネットワークがインターネットから隔離されていても、油断はできません。
保守作業で使用するUSBメモリやノートPCがマルウェアの持ち込み経路になることがあります。
物理的な経路も含めた対策が必要になるでしょう。
OTセキュリティ対策の具体的な進め方
続いては、OTセキュリティ対策の具体的な進め方について確認していきます。
対策は一度に完璧を目指すのではなく、段階的に進めていくことが現実的です。
OTセキュリティ対策では、資産管理、ネットワーク分離、アクセス制御、監視体制、インシデント対応計画の5つを軸に、優先順位をつけて継続的に取り組むことが最も重要です。
資産管理とリスクアセスメント
まずは自社の制御システムの構成を洗い出し、資産台帳を整備します。
そのうえで、それぞれの機器やシステムにどのようなリスクがあるかを評価していきます。
優先度の高いリスクから順に対策を検討することが効率的でしょう。
ネットワークセグメンテーションの実施
OTネットワークをさらに機能ごとに細かく分割することも有効です。
これをネットワークセグメンテーションと呼びます。
万が一一部のセグメントが侵害されても、被害を局所化できる可能性が高まります。
多層防御とゼロトラストの考え方
単一の防御策に頼るのではなく、複数の防御層を組み合わせる多層防御が推奨されます。
近年は「何も信頼しない」ことを前提とするゼロトラストの考え方も、OT分野に取り入れられ始めています。
アクセスのたびに認証と検証を行う仕組みは、不正アクセスの抑止に効果的でしょう。
多層防御の例として、境界防御、ネットワーク監視、エンドポイント保護、認証強化、物理セキュリティなどが挙げられます。
これらを組み合わせることで、一つの防御が突破されても被害を最小限に抑えられます。
OTセキュリティ対策における課題
続いては、OTセキュリティ対策における課題について確認していきます。
理想的な対策を理解していても、実際に導入するにはさまざまな壁が存在します。
専門人材の不足
OTとITの両方に精通した人材は、まだまだ少ないのが実情です。
制御システムの現場知識とサイバーセキュリティの知見を兼ね備えた人材の育成には時間がかかるでしょう。
外部の専門ベンダーとの連携も、有効な選択肢の一つといえます。
稼働停止できない環境での対策実施の難しさ
先述の通り、OTシステムは簡単に停止できません。
そのため、パッチ適用や機器更新のタイミングを慎重に見極める必要があります。
計画的なメンテナンス時間の確保が、大きな課題となっているのです。
コストと経営層の理解不足
OTセキュリティ対策には、機器の更新や監視システムの導入など一定の投資が必要です。
目に見える成果が分かりにくいため、経営層の理解を得にくいという声も聞かれます。
インシデント発生時の損失額を試算し、投資対効果を可視化して説明することが有効でしょう。
まとめ
ここまで、OTセキュリティの対策や必要性、課題について解説してきました。
制御システムを狙ったサイバー攻撃は年々巧妙化しており、他人事ではありません。
資産の可視化、ネットワーク分離、監視体制の構築といった基本的な対策を、段階的に積み重ねていくことが重要です。
人材不足やコストの壁など課題は多いものの、外部の専門知見を活用しながら着実に取り組んでいきましょう。
自社の制御システムを守ることは、事業の継続だけでなく、社会インフラを支える責任にもつながっています。