工場設備や空調機器、ポンプ、搬送装置などで使われる電動機には、誘導電動機と同期電動機があります。
どちらも交流電源で回転力を得る代表的なモーターですが、回転速度の考え方、回転子の構造、すべりの有無、適した用途には明確な違いがあります。
選定時にこの違いを見落とすと、必要な速度精度が得られなかったり、導入費用が過剰になったりする可能性もあるでしょう。
この記事では、両者の基本原理から実務での使い分けまで、比較表を交えながらわかりやすく解説します。
誘導電動機と同期電動機の基本的な違い
それではまず、誘導電動機と同期電動機の違いについて解説していきます。
回転速度を決める仕組み
誘導電動機は、固定子がつくる回転磁界よりも回転子が少し遅れて回る電動機です。
この回転磁界との速度差があることで回転子に電流が誘導され、電磁力によってトルクが発生します。
一方の同期電動機は、固定子の回転磁界と回転子が同じ速度で回転する構造です。
同期運転に入った後は、負荷が一定範囲に収まる限り、回転速度が電源周波数と極数によって決まります。
周波数が一定の商用電源で運転する場合、同期電動機は負荷変動があっても基本的に速度を保ちやすい点が特徴です。
回転子に使われる部品
一般的な誘導電動機では、回転子にかご形回転子が使われます。
鉄心の溝にアルミニウムや銅の導体を配置し、両端を短絡環でつないだ構造が多く、外部から回転子へ電力を供給する必要がありません。
同期電動機の回転子には、永久磁石を用いる方式や、界磁巻線に直流電流を流す方式があります。
永久磁石同期電動機では強力な磁石が磁界をつくるため、高効率化と小型化を進めやすいでしょう。
界磁巻線方式では、励磁電流を調整して力率を制御できることがあり、大容量設備で活用されます。
すべりの有無
誘導電動機を理解するうえで重要なのが、すべりです。
すべりとは同期速度と実際の回転速度の差を、同期速度に対する割合で表したものになります。
すべりは、同期速度から実回転速度を引き、同期速度で割って求めます。
すべり = 同期速度から実回転速度を引いた値を同期速度で割った値
誘導電動機では、トルクを発生させるために通常はすべりが必要です。
これに対し同期電動機は、正常な同期運転中であればすべりがほぼゼロになります。
ただし、急激に大きな負荷が加わって同期を維持できなくなると、脱調と呼ばれる状態になるため、運転条件の確認が欠かせません。
| 比較項目 | 誘導電動機 | 同期電動機 |
|---|---|---|
| 回転速度 | 同期速度より少し低い | 同期速度と一致する |
| すべり | 発生する | 通常は発生しない |
| 代表的な回転子 | かご形回転子 | 永久磁石または界磁巻線 |
| 始動 | 比較的容易 | 始動制御が必要な場合がある |
| 得意な領域 | 汎用負荷と連続運転 | 高効率と高精度な速度制御 |
回転速度とすべりの仕組み
続いては、回転速度とすべりの仕組みを確認していきます。
同期速度の計算方法
交流電動機の同期速度は、電源周波数と極数から決まります。
極数が少ないほど回転磁界は速くなり、極数が多いほど回転磁界は遅くなる関係です。
同期速度は、百二十に周波数を掛け、その値を極数で割って求めます。
五十ヘルツで四極の電動機なら、同期速度は毎分千五百回転です。
六十ヘルツで四極の電動機なら、同期速度は毎分千八百回転になります。
同期電動機はこの同期速度で回転しますが、誘導電動機の実回転速度は負荷によって少し下がります。
銘板に記載された定格回転速度が、五十ヘルツ四極で毎分千四百五十回転前後となるのは、すべりが存在するためです。
負荷変動と回転数の関係
誘導電動機は負荷が増えると、回転子の速度がわずかに低下します。
すると回転磁界との速度差が大きくなり、回転子に誘導される電流が増えて、必要なトルクを得やすくなります。
この性質により、誘導電動機は負荷の変化に自然に対応しやすいといえます。
ただし、回転数を厳密に維持したい装置では、負荷による速度変化が問題になることもあります。
同期電動機は負荷が変わっても回転速度を保つため、一定速度が求められる工程で強みを発揮します。
もっとも、許容範囲を超える負荷をかけると同期状態を失うおそれがあるため、余裕を持った容量選定が必要です。
インバータ制御による速度調整
現在は、インバータによって交流の周波数を変え、電動機の速度を制御する方式が広く普及しています。
誘導電動機でもインバータを使えば、低速から高速まで幅広い回転数を調整できます。
永久磁石同期電動機もインバータと組み合わせることで、高精度かつ高効率な可変速運転が可能です。
両者の差は、インバータを使えば完全になくなるわけではありません。
誘導電動機では回転子電流を誘導するためのすべりを考慮する必要があり、同期電動機では回転子位置を適切に把握する制御が求められます。
可変速運転では、単に最高回転数を見るだけでは不十分です。
低速時の必要トルク、加減速時間、連続運転時間、負荷慣性、冷却条件まで確認すると、適切なモーター方式を選びやすくなります。
構造と始動方式の比較
続いては、構造と始動方式の比較を確認していきます。
誘導電動機のかご形回転子
かご形誘導電動機は、構造が比較的シンプルです。
回転子にブラシや整流子を持たないため、摩耗部品が少なく、保守の負担を抑えやすい特徴があります。
商用電源へ接続するだけで始動できる形式も多く、ポンプ、ファン、コンプレッサー、コンベヤなどに幅広く採用されています。
始動時には大きな電流が流れる場合があるため、大型機器では始動方法の検討が必要です。
直入始動のほか、スターデルタ始動、ソフトスタータ、インバータ始動などを使い分けます。
丈夫で扱いやすい構造は、誘導電動機が汎用機として長く使われてきた理由の一つでしょう。
同期電動機の永久磁石と界磁
同期電動機は、回転子側に明確な磁極を持つことが特徴です。
永久磁石同期電動機では、ネオジム磁石などの永久磁石を回転子に配置し、回転子そのものが磁界を持ちます。
界磁巻線式同期電動機では、回転子の巻線へ直流を供給して磁極を形成します。
永久磁石方式は、回転子に電流を流して損失を生じさせる必要がないため、高効率を実現しやすい構造です。
一方で、磁石材料の価格変動や高温環境での減磁リスクなど、採用前に確認したい点もあります。
界磁巻線方式は装置構成が大きくなる傾向があるものの、大容量機や力率改善を重視する設備で選ばれることがあります。
始動時に必要となる制御
誘導電動機は停止状態でも回転磁界との速度差があるため、始動トルクを発生させやすい仕組みです。
同期電動機は、停止状態からただちに同期速度へ追従することが難しい形式があります。
そのため、インバータで周波数を徐々に上げる方法や、始動用の補助構造を使う方法が採用されます。
家庭用エアコン、冷蔵庫、電気自動車などで使われる永久磁石同期電動機は、専用の電子制御回路と組み合わせることが一般的です。
始動から定常運転までを制御装置が管理することで、滑らかな加速と省エネルギー運転につなげられます。
始動頻度が高い設備では、始動電流と発熱の確認が重要です。
大きな慣性を持つ負荷では、必要な加速トルクと加速時間を算出して、モーターとインバータの容量を決めます。
効率と力率に関する特性
続いては、効率と力率に関する特性を確認していきます。
電力損失の発生箇所
電動機の効率は、入力した電力のうち、どれだけを機械的な出力として取り出せるかを示す指標です。
損失には、固定子巻線で発生する銅損、鉄心の磁気変化による鉄損、軸受や風による機械損などがあります。
誘導電動機には、回転子導体に電流が流れることで生じる回転子銅損もあります。
同期電動機、とくに永久磁石同期電動機では、回転子の電気損失を抑えやすいため、部分負荷も含めて高効率になりやすい傾向です。
ただし、実際の消費電力はモーター単体の効率だけで決まりません。
減速機、ベルト、ポンプ羽根、ファン、インバータの損失まで含めて検討することが大切です。
部分負荷での省エネルギー性
設備が常に定格負荷で動くとは限りません。
空調用ファンや循環ポンプのように、日や時間帯によって必要風量や必要流量が変わる設備では、部分負荷での効率が重要になります。
永久磁石同期電動機は、低負荷領域でも比較的効率を保ちやすく、長時間運転の省エネに向く場合があります。
一方、誘導電動機も高効率仕様や適切なインバータ制御を選べば、十分に優れた省エネルギー性能を期待できます。
初期費用だけでなく、年間運転時間、電力単価、保全費用を含めた総コストで比較することが実務的です。
稼働時間が短い装置では、効率差による電力費削減額よりも、装置価格や保守性の違いが大きく影響することもあります。
力率改善への活用
力率は、供給された電力をどれだけ有効に使えているかを示す考え方です。
誘導電動機は磁界をつくるために無効電力を必要とするため、特に軽負荷時には力率が低下しやすくなります。
界磁電流を調整できる同期電動機では、運転条件によって進み力率側へ調整できる場合があります。
その性質を利用し、大容量の同期電動機を力率改善にも役立てるケースがあります。
ただし、力率改善だけを目的に同期電動機を導入するかは、受電設備、コンデンサ設備、運転形態を踏まえて判断する必要があるでしょう。
高効率という言葉だけで機種を決めるのは避けたいところです。
定格負荷だけでなく、実際によく使う回転数と負荷率で効率を比較すると、導入効果を見誤りにくくなります。
用途別の選び方
続いては、用途別の選び方を確認していきます。
ポンプとファンに適した電動機
ポンプやファンでは、誘導電動機が多く使われています。
構造が簡潔で信頼性が高く、標準品を選びやすいため、幅広い設備に対応できます。
流量や風量の調整が必要な場合は、インバータで誘導電動機の速度を変える方式が実用的です。
一方、年間を通して長時間運転し、負荷変動も大きい設備では、永久磁石同期電動機を採用することで消費電力を抑えられることがあります。
設備の規模が大きいほど、数パーセントの効率差が年間電力費に与える影響は小さくありません。
更新案件では、既存設備の実測電流、運転時間、負荷率を記録してから比較するとよいでしょう。
搬送設備と工作機械に適した電動機
コンベヤなどの搬送設備では、速度精度、始動頻度、負荷変動の大きさを確認します。
一定速度で動けばよい一般的な搬送機では、誘導電動機が選ばれやすい傾向です。
速度の同期や位置決めが必要な装置では、サーボモーターを含む同期電動機系の技術が適しています。
工作機械では、主軸の高速回転、加減速性能、低速域のトルク、位置制御などが重要になります。
精密な動作制御を重視する場面では、回転子位置に基づいた同期電動機の制御が有利になりやすいでしょう。
ただし、求める精度が高いほど、エンコーダ、制御器、配線、調整作業まで含めた設計が必要です。
家電と電気自動車に適した電動機
家電製品では、省エネルギー性と静音性、小型化が重視されます。
エアコンのコンプレッサーや高性能な洗濯機には、永久磁石同期電動機が使われることがあります。
回転数を細かく変えられるため、必要な能力に合わせた運転を行いやすい点が魅力です。
電気自動車でも、永久磁石同期電動機は高いトルク密度と効率を得やすいことから、有力な選択肢になっています。
一方で誘導電動機も、永久磁石を必要としないこと、広い速度域で運転しやすいことなどから、車両用途を含めて活用されています。
用途ごとに重要視する条件が異なるため、モーターの種類だけで優劣を決めるのではなく、システム全体で判断することが重要です。
| 用途 | 選ばれやすい方式 | 重視されるポイント |
|---|---|---|
| 一般的な送風機 | 誘導電動機 | 導入しやすさと保守性 |
| 可変速ポンプ | 誘導電動機または永久磁石同期電動機 | 流量制御と年間電力費 |
| 高精度搬送装置 | 同期電動機系 | 速度同期と位置制御 |
| 大型連続運転設備 | 同期電動機 | 効率と力率 |
| 空調用コンプレッサー | 永久磁石同期電動機 | 部分負荷効率と静音性 |
| 汎用機械設備 | 誘導電動機 | 耐久性と調達性 |
誘導電動機と同期電動機の比較まとめ
誘導電動機と同期電動機の大きな違いは、回転磁界に対する回転子の速度にあります。
誘導電動機はすべりを利用してトルクを得るため、実回転速度は同期速度より少し低くなります。
同期電動機は回転磁界と同じ速度で回るため、一定の回転速度を維持しやすいことが特徴です。
誘導電動機は構造が比較的簡潔で、始動しやすく、汎用設備への導入に向いています。
同期電動機は高効率、速度精度、永久磁石による小型化などが魅力となり、制御性や省エネルギー性を重視する装置で活躍します。
選定では、回転速度、負荷特性、始動回数、連続運転時間、必要な制御精度、初期費用、電力費をまとめて比較することが重要です。
汎用性と扱いやすさを重視するなら誘導電動機が有力です。
速度の安定性や高効率な可変速運転を重視するなら、同期電動機を候補に入れるとよいでしょう。
設備ごとの運転条件を整理したうえで選べば、性能とコストのバランスが取れたモーター選定につながります。