ヒステリシス損の概念を理解したら、次に重要なのはその定量的な計算方法です。
変圧器・モータ・インダクタの設計において、ヒステリシス損失を正確に計算できることは機器の効率予測・熱設計・材料選定の精度向上に直結します。
ヒステリシス損失の計算には「スタインメッツの式」と呼ばれる経験式が広く使われており、周波数・磁束密度・材料定数から損失を計算することができます。
本記事では、スタインメッツの式の定義・パラメータの意味・計算手順・単位・数値例を体系的に解説します。
ヒステリシス損失の計算公式:スタインメッツの式
それではまず、ヒステリシス損失の計算公式であるスタインメッツの式について解説していきます。
この式を正確に理解して使いこなすことが、電磁設計の精度向上に直結します。
スタインメッツの式の基本形
ヒステリシス損失の計算に広く使われるスタインメッツの式は次の通りです。
【スタインメッツの式(基本形)】
Ph = Kh × f × Bm^n
Ph:ヒステリシス損失密度(W/m³またはW/kg)
Kh:ヒステリシス係数(材料固有の定数)
f:周波数(Hz)
Bm:最大磁束密度(T:テスラ)
n:スタインメッツ指数(材料によって1.5〜2.5程度、典型値は1.6〜2.0)
この式は1892年にチャールズ・スタインメッツが実験データから導出した経験式であり、理論式ではない点に注意が必要です。
実際の材料では磁束密度の範囲によってnの値が変化するため、適用範囲の確認が重要です。
各パラメータの意味と単位
スタインメッツの式の各パラメータを正確に理解することが計算精度の基本です。
| パラメータ | 記号 | 単位 | 典型的な値 |
|---|---|---|---|
| ヒステリシス係数 | Kh | 材料・単位系に依存 | 材料データシートより取得 |
| 周波数 | f | Hz(ヘルツ) | 50Hz・60Hz・高周波など |
| 最大磁束密度 | Bm | T(テスラ)またはGs | 0.1〜2.0T程度 |
| スタインメッツ指数 | n | 無次元 | 1.6〜2.0(軟磁性材料) |
| ヒステリシス損失密度 | Ph | W/kg または W/m³ | 計算結果 |
Kh(ヒステリシス係数)とn(スタインメッツ指数)は材料固有の定数であり、使用する材料のデータシートから取得するか実験的に決定します。
改良スタインメッツ式(iGSE)
基本のスタインメッツ式は正弦波交流磁界を前提としています。
スイッチング電源のような非正弦波(矩形波・三角波)環境では「改良スタインメッツ式(iGSE:Improved Generalized Steinmetz Equation)」が使われます。
iGSEは任意の波形に対応した損失計算が可能であり、電力エレクトロニクス機器の設計で特に重要な計算手法です。
周波数と磁束密度の影響を計算で確認する
続いては、周波数と磁束密度の変化がヒステリシス損失に与える影響を計算例で確認していきます。
数値例を通じて理論と実際の関係を直感的に理解できます。
周波数が2倍になった場合の損失変化
【計算例:周波数の影響】
条件:Kh = 0.01、Bm = 1.0T、n = 2.0
f = 50Hzの場合:Ph = 0.01 × 50 × 1.0² = 0.5 W/kg
f = 100Hzの場合:Ph = 0.01 × 100 × 1.0² = 1.0 W/kg
→周波数が2倍になるとヒステリシス損失も2倍になる
周波数に対して1乗比例するというスタインメッツ式の特性が確認できます。
高周波スイッチング電源では損失増大を防ぐために低ヒステリシス材料の選択が特に重要です。
磁束密度が増加した場合の損失変化
【計算例:磁束密度の影響(n=2.0の場合)】
条件:Kh = 0.01、f = 50Hz
Bm = 1.0Tの場合:Ph = 0.01 × 50 × 1.0² = 0.5 W/kg
Bm = 1.5Tの場合:Ph = 0.01 × 50 × 1.5² = 1.125 W/kg(約2.25倍)
Bm = 2.0Tの場合:Ph = 0.01 × 50 × 2.0² = 2.0 W/kg(4倍)
磁束密度の増加に対して損失が急激に増大することがわかります。
設計磁束密度を高く設定するほど損失が指数的に増加するため、コアサイズと損失のトレードオフ設計が必要です。
鉄損全体への寄与と渦電流損との比較
鉄損全体はヒステリシス損と渦電流損の合計です。
鉄損総量 W = Ph + Pe
Ph(ヒステリシス損)∝ f × Bm^n
Pe(渦電流損)∝ f² × Bm² × t²(t:板厚)
→商用周波数(50/60Hz)ではPh≒Pe〜2×Pe程度
→高周波(kHz以上)ではPeがPhを大幅に上回ることが多い
周波数帯域によってどちらの損失が支配的かが変わるため、設計周波数に応じた損失低減対策の優先順位が異なります。
材料別のスタインメッツ係数と実用的な計算活用
続いては、材料別のスタインメッツ係数と実用的な計算活用方法を確認していきます。
主要磁性材料のスタインメッツ指数の目安
| 材料 | スタインメッツ指数 n | 主な用途 |
|---|---|---|
| 電磁鋼板(方向性) | 1.8〜2.0 | 電力変圧器 |
| 電磁鋼板(無方向性) | 1.8〜2.2 | モータ・小型変圧器 |
| アモルファス金属 | 1.5〜1.8 | 高効率変圧器 |
| フェライト(MnZn) | 2.0〜2.5 | 高周波トランス |
| フェライト(NiZn) | 2.0〜2.5 | EMCフィルタ・RF用 |
nの値が大きいほど磁束密度の増加に対する損失増大が急激になるため、高磁束密度で使用するコアにはnの小さい材料が有利です。
設計計算への応用
変圧器やインダクタの設計では、スタインメッツの式を使って設計磁束密度での損失を事前に計算し、発熱量・熱抵抗・冷却設計に反映させます。
Kh・nの値は材料メーカーが提供するデータシートから入手し、設計条件の磁束密度・周波数で損失密度を計算します。
計算した損失密度(W/kg)にコアの重量(kg)を掛けることで機器全体のヒステリシス損失(W)が求まります。
スタインメッツの式の正しい活用のための三大ポイントは「Kh・nは材料データシートから正確に取得する」「適用磁束密度範囲を確認してnの妥当性を検証する」「非正弦波環境では改良スタインメッツ式(iGSE)を使用する」です。この三点を守ることで、実設計での損失計算精度が大幅に向上します。
まとめ
本記事では、ヒステリシス損失の計算公式(スタインメッツの式)のパラメータ・計算手順・周波数・磁束密度依存性・材料別の特性について解説しました。
Ph = Kh × f × Bm^nという式を正確に使いこなし、材料データシートのKh・nを活用することで、設計段階での損失予測精度が大幅に向上します。
スタインメッツの式による損失計算は電磁機器の高効率設計の基盤となる重要な技術知識です。