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励磁電流とは?意味や仕組みをわかりやすく解説!(変圧器:磁束:無負荷電流:リアクトル:コイルなど)

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励磁電流とは、変圧器やコイルなどの磁気回路を持つ電気機器において、磁束を発生させるために必要な電流のことです。

電気機器の設計・保護・運用において非常に重要な概念であり、電気工学を学ぶうえで避けて通れないテーマの一つです。

本記事では、励磁電流の定義・仕組み・変圧器における役割・磁束との関係・無負荷電流との違いまで、初めて学ぶ方にもわかりやすく解説します。

電気工学・電気主任技術者試験・実務での変圧器管理に携わる方はぜひ参考にしてください。

励磁電流とは何か?基本的な定義と概要

それではまず、励磁電流の基本的な定義と概要について解説していきます。

励磁電流(れいじでんりゅう)とは、変圧器・リアクトル・コイルなどの磁気回路において、鉄心に磁束を発生・維持させるために必要な電流のことです。

英語では「exciting current(エキサイティング カレント)」または「magnetizing current(マグネタイジング カレント)」と表現されます。

変圧器に交流電圧を印加したとき、負荷の有無にかかわらず一次側コイルに流れる電流が励磁電流であり、無負荷状態での電流が励磁電流に相当します。

励磁電流の本質は「鉄心を磁化するためのエネルギー供給」です。

磁束を発生させるには鉄心の磁化特性に見合った起磁力(アンペア回数:NI)が必要であり、この起磁力を生み出す電流が励磁電流です。

変圧器における励磁電流の役割

変圧器は一次コイルに交流電圧を印加することで鉄心に交番磁束を発生させ、この磁束が二次コイルに起電力を誘導する仕組みです。

この交番磁束を発生させるために必要な電流が励磁電流であり、変圧器の一次側には常に励磁電流が流れています。

励磁電流は変圧器の定格電流と比較すると非常に小さく、一般的には定格電流の1〜10%程度です。

理想変圧器では励磁電流をゼロと仮定しますが、実際の変圧器では無視できない影響を持つ場合もあります。

励磁電流の2つの成分(磁化電流と損失電流)

励磁電流は厳密には2つの成分に分解できます。

第一に「磁化電流(Magnetizing current)」であり、鉄心に磁束を発生させるための無効成分です。電圧と90°位相が遅れており、遅れの無効電流として扱われます。

第二に「損失電流(Core loss current)」であり、鉄心の磁気ヒステリシス損・渦電流損を補うための有効成分です。電圧と同位相(in-phase)の電流となります。

励磁電流の成分

励磁電流 I₀ = 磁化電流(Im)+ 損失電流(Ic)

Im:無効成分(電圧より90°遅れ)

Ic:有効成分(電圧と同位相)

|I₀|² = Im² + Ic²

実際の変圧器では磁化電流の成分が損失電流より大きく、励磁電流は電圧よりも大きく位相が遅れる(遅れ力率)特性を示します。

励磁電流の大きさを決める要因

励磁電流の大きさは、次の要因によって決まります。

鉄心の材料(磁性材料の磁化特性・透磁率)・鉄心断面積と磁路長・コイルの巻数・印加電圧の大きさと周波数が主な決定要因です。

高品質な方向性電磁鋼板を使用した鉄心は透磁率が高く、少ない励磁電流で大きな磁束を得られるため、変圧器の効率向上に貢献します。

磁束と励磁電流の関係(磁化特性・B-H曲線)

続いては、磁束と励磁電流の関係について確認していきます。

磁束密度(B)と磁界の強さ(H)の関係を示すB-H曲線(磁化特性曲線)は励磁電流を理解するうえで核心的な概念です。

B-H曲線と磁気飽和の概念

B-H曲線は横軸に磁界の強さH(≒励磁電流に比例)、縦軸に磁束密度Bをとったグラフです。

磁束密度Bが低い領域では、Hの増加に対してBも急激に増加します(高透磁率領域)。

しかし、ある程度Bが高くなると磁気飽和が生じ、Hをいくら増やしてもBがほとんど増えない領域に入ります。

変圧器の設計では磁気飽和を避けるよう動作点(定格磁束密度)を適切に設定することが重要でしょう。

ヒステリシスループと鉄損への影響

交流磁化では、1サイクルごとにB-Hの関係がループ状の曲線(ヒステリシスループ)を描きます。

このヒステリシスループの面積が鉄心の「ヒステリシス損」に相当し、交流サイクルごとに熱として消費されます。

ヒステリシス損が大きいほど鉄損が大きくなり、変圧器の効率が低下します。

現代の変圧器には方向性電磁鋼板(珪素鋼板)などヒステリシス損の小さい材料が使用されており、励磁電流の低減と効率向上が図られています。

励磁電流と変圧器の等価回路

変圧器の等価回路において、励磁電流は励磁ブランチ(励磁アドミタンス)として表現されます。

励磁ブランチはコンダクタンスG₀(鉄損成分)とサセプタンスB₀(磁化成分)の並列接続として等価回路に挿入されます。

この等価回路を理解することで、変圧器の無負荷損・短絡損・電圧変動率などの特性計算が可能になります。

励磁電流の測定と変圧器の無負荷試験

続いては、励磁電流の測定と変圧器の無負荷試験について確認していきます。

無負荷試験(開放試験)の方法と測定項目

変圧器の励磁電流は「無負荷試験(開放試験)」によって測定されます。

二次側を開放した状態で一次側に定格電圧を印加し、このとき一次側に流れる電流が励磁電流(無負荷電流)です。

無負荷試験で測定する主要な項目は、無負荷電流(励磁電流)・無負荷損(鉄損)・励磁アドミタンスです。

試験項目 測定内容 求められるパラメータ
無負荷試験 二次開放・定格電圧印加 励磁電流・鉄損・励磁アドミタンス
短絡試験 二次短絡・定格電流通電 インピーダンス電圧・銅損・漏れリアクタンス

励磁電流の波形と高調波

実際の変圧器では、印加電圧が正弦波であっても励磁電流の波形は正弦波にならないことがあります。

磁化特性(B-H曲線)の非線形性により、励磁電流には基本波に加えて第3次・第5次などの奇数次高調波成分が含まれます。

第3次高調波は三相変圧器の結線方式(Y-Δ・Δ-Y等)によって流れる経路が異なり、接地方式や結線の選択が変圧器設計の重要ポイントになります。

励磁電流の管理と変圧器保護への活用

変圧器保護において励磁電流の特性を正しく理解することは非常に重要です。

特に変圧器の投入時(電源ON時)に発生する「励磁突入電流」は、定常時の励磁電流とは桁違いに大きな過渡電流であり、保護リレーの誤動作原因となります。

比率差動保護リレー(87T)の設計では、励磁突入電流による誤動作を防ぐための第2高調波抑制機能が組み込まれており、励磁特性の正確な把握が保護協調の前提となります。

まとめ

本記事では、励磁電流の定義・磁化電流と損失電流の2成分・B-H曲線・ヒステリシス損・無負荷試験・保護リレーとの関係まで詳しく解説しました。

励磁電流は変圧器の鉄心に磁束を発生させるために必要な電流であり、磁化成分と損失成分に分解して理解することが電気工学の基礎となります。

B-H曲線・磁気飽和・高調波特性を正しく理解することで、変圧器の設計・試験・保護・運用に関する理解が深まるでしょう。

本記事を参考に、励磁電流への理解をさらに深めていただければ幸いです。