二相ステンレスは高強度・高耐食性という優れた特性を持つ一方で、溶接においては特有の注意点があります。
適切な溶接方法・溶接棒の選定・入熱管理を行わないと、溶接部の相バランスが崩れたり、有害析出相が生成したりする可能性があります。
この記事では、二相ステンレスの溶接性の特徴、TIG溶接・MIG溶接などの溶接方法、予熱・後熱処理、溶接棒選定、割れ対策のポイントをわかりやすく解説します。
二相ステンレスの溶接性の基本的な特徴
それではまず、二相ステンレスの溶接性の基本と、オーステナイト系との違いについて解説していきます。
二相ステンレスの溶接性は、オーステナイト系ステンレス(SUS304・SUS316)と比較してやや複雑ですが、適切な管理のもとでは良好な溶接継手が得られます。
主な溶接上の課題として、溶接熱サイクルによる相バランスの変化・σ相などの有害析出相の生成・水素脆化のリスクがあります。
二相ステンレスの溶接における三大課題:
①入熱過大による相バランスの乱れとσ相析出
②急冷によるフェライト相過多と靱性・耐食性の低下
③溶接棒の誤選定による成分希釈と相バランス崩壊
これらの課題を理解し、適切な管理手順を徹底することが、二相ステンレス溶接部の品質確保の基本となります。
二相ステンレスに適した溶接方法
続いては、二相ステンレスに適した各種溶接方法の特徴と選定ポイントを確認していきます。
TIG溶接(GTAW)の特徴と適用
TIG溶接(ガスタングステンアーク溶接:GTAW)は、二相ステンレスの溶接で最もよく使われる方法のひとつです。
熱源を精密にコントロールできるため、入熱管理がしやすく、薄板・精密溶接・配管溶接に適しています。
二相ステンレスのTIG溶接では、バックシールドガス(裏ガス)としてアルゴン(Ar)または窒素含有混合ガスを使用することで、裏面酸化を防ぎ相バランスを維持できます。
MIG溶接(GMAW)の特徴と適用
MIG溶接(ガスメタルアーク溶接:GMAW)は、TIG溶接より高速で溶接できるため、中・厚板の溶接に適しています。
シールドガスには98%Ar+2%N₂やArにCO₂を少量添加した混合ガスが使われ、窒素の添加が相バランス維持に有効です。
入熱管理が重要で、過大な入熱はσ相析出の原因となるため、パス間温度を100〜150℃以下に管理することが推奨されます。
その他の溶接方法
二相ステンレスには被覆アーク溶接(SMAW)・サブマージアーク溶接(SAW)・プラズマ溶接(PAW)も適用されます。
| 溶接方法 | 適用板厚 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| TIG(GTAW) | 薄〜中板(0.5〜10mm) | 精密入熱管理・裏ガス必要 |
| MIG(GMAW) | 中〜厚板(3mm以上) | 高速溶接・混合シールドガス使用 |
| 被覆アーク(SMAW) | 中〜厚板(3mm以上) | 現場施工向き・塩基性系溶接棒推奨 |
| サブマージアーク(SAW) | 厚板(10mm以上) | 高能率・フラックス選定が重要 |
溶接棒・溶接材料の選定
続いては、二相ステンレス溶接に適した溶接棒・溶接ワイヤの選定方法を確認していきます。
溶接材料選定の基本原則
二相ステンレスの溶接では、母材と同等以上の合金組成を持つ溶接材料を使用することが基本原則です。
特に溶接金属のオーステナイト相を確保するために、溶接材料にはNi・N含有量が母材よりやや高めに設定されたものが多く使われます。
2205母材の溶接では「2209ワイヤ(UNS S39209)」が標準的に使用され、Ni量を増やすことで溶接金属の相バランスを最適化しています。
代表的な溶接材料一覧
【二相ステンレス用溶接材料の例】
・2205母材用:ER2209ワイヤ / E2209被覆アーク溶接棒
・2507(スーパーデュプレックス)用:ER2594ワイヤ
・SUS329J3L用:Y329J3Lワイヤ(JIS規格相当)
入熱管理・パス間温度・後処理の注意点
続いては、溶接時の入熱管理と後処理における注意点を確認していきます。
推奨入熱範囲とパス間温度管理
二相ステンレスの溶接では、入熱量を適切な範囲に維持することが最重要事項のひとつです。
推奨入熱範囲は一般的に0.5〜2.5 kJ/mmとされており、入熱が大きすぎると鋭敏化・σ相析出が起こり、小さすぎると相バランスが崩れる恐れがあります。
パス間温度は最大150℃(場合によっては100℃)以下に管理し、次のパスへ移る前に十分に冷却することが推奨されます。
予熱・後熱処理の考え方
二相ステンレスは通常、予熱は不要とされています。
むしろ高温での過熱はσ相析出のリスクを高めるため、過度の予熱は避けることが重要です。
溶接後の熱処理(PWHT:Post Weld Heat Treatment)も、一般的には実施しないか、固溶化処理(1020〜1100℃の急冷)が必要な場合に限り実施します。
割れ対策と品質検査
二相ステンレスの溶接では、水素誘起割れ(HIC)や凝固割れに注意が必要です。
水素吸収を防ぐため、溶接材料は乾燥保管し、適切に乾燥処理してから使用することが推奨されます。
溶接後の品質検査には、外観検査・浸透探傷試験(PT)・放射線透過試験(RT)・超音波探傷試験(UT)が適用されます。
まとめ
この記事では、二相ステンレスの溶接性・溶接方法・溶接棒選定・入熱管理・後処理・割れ対策について解説しました。
TIG溶接やMIG溶接を適切な入熱管理のもとで実施し、相バランスを維持した溶接継手を確保することが二相ステンレス溶接の基本です。
溶接材料の選定(2209ワイヤ等)・パス間温度管理・後熱処理の適切な実施によって、溶接部の高品質を維持できるでしょう。