電子機器の小型化や高出力化が進むほど、部品から発生する熱を安全に逃がす設計が重要になります。
放熱が不足すると、半導体や電源回路の温度が上昇し、性能低下、寿命短縮、保護回路の作動につながるおそれがあります。
放熱計算は、発熱量、周囲温度、許容温度、熱抵抗などを用いて、必要なヒートシンクや冷却方法を判断するための基本作業です。
本記事では、放熱計算の公式、熱抵抗の考え方、ヒートシンク選定、基板設計に活かす方法まで、実務で使いやすい形で解説します。
放熱計算の意味と基本的な考え方

それではまず放熱計算の意味と基本的な考え方について解説していきます。
発熱した熱を外部へ移動させる設計作業
放熱計算とは、電子部品などで発生した熱を周囲へ移動させ、部品温度を許容範囲に保てるか確認する計算です。
対象になるのは、CPU、LED、パワーMOSFET、IGBT、レギュレータ、モータドライバ、電源ICなど、動作中に電力損失を生じる部品です。
電気エネルギーのすべてが有効な仕事へ変換されるわけではありません。
変換しきれなかった損失の一部は熱となり、部品内部からパッケージ、基板、ヒートシンク、空気へと移動します。
放熱計算の目的は、部品が壊れない温度に保つことだけではありません。
性能の安定、長期信頼性、周辺部品への熱影響の抑制、筐体の安全性を含めて判断することが大切です。
温度上昇と許容温度の関係
放熱設計では、部品の最高温度と周囲温度の差を温度上昇として扱います。
たとえば最大接合部温度が125℃で、装置内部の周囲温度が40℃なら、許容できる温度上昇は85℃です。
ただし、カタログ上の最大接合部温度まで常に使い切る設計は余裕が少なくなります。
周囲温度の上振れ、部品ばらつき、経年変化、ファン停止といった条件を考慮し、設計上の目標温度を低めに設定する考え方が一般的です。
許容温度上昇 = 設計上の許容接合部温度 - 想定周囲温度
例として、許容接合部温度を110℃、周囲温度を45℃に設定した場合、許容温度上昇は65℃です。
この温度上昇を超えないように、熱抵抗と発熱量の組み合わせを設計していきます。
伝導と対流と放射による熱移動
熱が逃げる経路には、主に熱伝導、対流、放射の三つがあります。
熱伝導は、半導体チップからパッケージ、絶縁シート、ヒートシンクへ熱が伝わる現象です。
対流は、ヒートシンク表面から空気へ熱が移る現象で、自然空冷と強制空冷に分けられます。
放射は、温度を持つ物体から電磁波として熱が移る現象であり、黒色アルマイト処理のヒートシンクなどでは影響を考慮しやすくなります。
実際の放熱設計では、どれか一つだけでなく、複数の熱移動が同時に働きます。
熱の流れを一方向の経路として整理すると、複雑な構造でも計算の見通しが良くなるでしょう。
放熱計算に使う公式と発熱量
続いては放熱計算に使う公式と発熱量を確認していきます。
基本式となる温度上昇の計算式
放熱計算で最も基本となるのは、発熱量と熱抵抗から温度上昇を求める式です。
温度上昇 = 発熱量 × 熱抵抗
接合部温度 = 周囲温度 + 発熱量 × 接合部から周囲までの熱抵抗
発熱量の単位はW、熱抵抗の単位は℃毎W、温度上昇の単位は℃で扱います。
発熱量が10Wで、接合部から周囲までの熱抵抗が5℃毎Wなら、温度上昇は50℃です。
周囲温度が35℃であれば、接合部温度は85℃と見積もれます。
この式は単純ですが、放熱設計の判断を支える中心的な公式です。
消費電力と損失電力から発熱量を求める方法
発熱量は、必ずしも入力電力と同じではありません。
部品が消費した電力のうち、外部へ有効な仕事として出力されなかった部分が主な損失電力となります。
たとえばDC-DCコンバータでは、入力電力と出力電力の差が発熱の目安です。
損失電力 = 入力電力 - 出力電力
効率を用いる場合は、損失電力 = 出力電力 × {1 ÷ 効率 - 1}
出力が24Wで効率が90%の場合、損失電力は約2.67Wです。
MOSFETのようなスイッチング素子では、導通損失、スイッチング損失、ゲート駆動損失などを合計して発熱量を求めます。
LEDでは、投入した電力の多くが熱へ変わるため、電気入力だけでなく光出力や変換効率を踏まえた確認が必要です。
連続運転と過渡状態で異なる熱の見方
連続運転では、一定時間後に温度が落ち着く定常状態を基準に計算します。
一方、短時間だけ大きな電力が流れる機器では、温度が上がり切る前に動作が終わる場合もあります。
このような条件では、熱インピーダンスやパルス幅、デューティ比を用いて過渡的な温度上昇を確認します。
データシートに掲載される過渡熱抵抗特性は、短時間の負荷条件で重要な資料です。
定常状態の熱抵抗だけで、パルス運転の安全性を判断するのは避けましょう。
短時間運転でも繰り返し周期が短い場合は熱が蓄積するため、平均損失とピーク損失の両方を確認する必要があります。
熱抵抗の種類と熱回路の組み立て方
続いては熱抵抗の種類と熱回路の組み立て方を確認していきます。
接合部から周囲までの熱抵抗
半導体の熱抵抗には、接合部からケースまでの熱抵抗、接合部から周囲までの熱抵抗、接合部から基板までの熱抵抗などがあります。
接合部とは半導体チップ内部で熱が発生する位置を示し、ケースはパッケージ外装、周囲は製品周辺の空気を意味します。
接合部から周囲までの熱抵抗は、ヒートシンクを使わず、指定された基板条件で測定された参考値であることが多い項目です。
そのため、実際の基板面積、銅箔量、筐体構造が異なる場合には、値をそのまま当てはめない注意が必要です。
熱抵抗の数値は、部品単体の絶対的な性能ではなく、測定条件を含む値です。
接合部からヒートシンクまでの熱抵抗
ヒートシンクを取り付ける構造では、熱抵抗を直列に足し合わせて考えます。
代表的な経路は、接合部からケース、ケースからヒートシンク、ヒートシンクから周囲という順番です。
接合部から周囲までの合成熱抵抗 = 接合部からケースまでの熱抵抗 + ケースからヒートシンクまでの熱抵抗 + ヒートシンクから周囲までの熱抵抗
ケースとヒートシンクの間には、表面の微細な凹凸による空気層が生まれます。
空気は熱を伝えにくいため、熱伝導グリス、熱伝導シート、絶縁シートなどを使って接触熱抵抗を抑えます。
締結トルクが不足しても過大でも性能に影響するため、部品メーカーが指定する取り付け条件を確認しましょう。
並列熱経路を考慮するポイント
熱は一つの経路だけを通るとは限りません。
部品から基板へ伝わる熱と、ケース上面からヒートシンクへ流れる熱が同時に存在する構造もあります。
このような場合、熱抵抗は電気回路の並列抵抗に似た考え方で扱います。
低い熱抵抗の経路ほど多くの熱が流れるため、基板の銅箔面積やサーマルビアを増やすと、基板側の放熱経路を強化できます。
熱抵抗を足し算する前に、熱がどこを通って外へ出るかを図として書き出すことが重要です。
ヒートシンク、基板、筐体、固定ねじのすべてが熱経路になる可能性があります。
ヒートシンク選定と空冷条件
続いてはヒートシンク選定と空冷条件を確認していきます。
必要なヒートシンク熱抵抗の求め方
ヒートシンクを選ぶ際は、まず許容できる合成熱抵抗を求めます。
次に、部品内部と接触面の熱抵抗を差し引き、ヒートシンクに必要な熱抵抗を算出します。
必要なヒートシンク熱抵抗 = {許容接合部温度 - 周囲温度}÷ 発熱量 - 接合部からケースまでの熱抵抗 - ケースからヒートシンクまでの熱抵抗
たとえば、許容接合部温度110℃、周囲温度40℃、発熱量8W、接合部からケースまで2℃毎W、接触部分が0.5℃毎Wとします。
合成熱抵抗の上限は8.75℃毎Wです。
そこから2℃毎Wと0.5℃毎Wを引くと、ヒートシンクには6.25℃毎W以下の性能が必要になります。
選定時には、計算値と同じ熱抵抗ではなく、余裕を持ってより低い熱抵抗の製品を選ぶのが安心です。
自然空冷と強制空冷の違い
自然空冷は、温められた空気が上昇する性質を利用して熱を逃がす方法です。
ファンを使わないため静音性と信頼性に優れますが、ヒートシンクの大きさや設置方向の影響を受けやすくなります。
強制空冷は、ファンによって空気を流し、フィン表面からの対流を強める方法です。
同じヒートシンクでも、風速や風量が増えれば熱抵抗が大きく下がる場合があります。
| 冷却方法 | 特徴 | 設計時の注意点 |
|---|---|---|
| 自然空冷 | 静かで構造が簡単 | フィン方向、周囲空間、筐体の通気を確認 |
| 強制空冷 | 小型でも高い放熱性能を得やすい | 風量低下、騒音、ファン寿命、吸気温度を確認 |
| 筐体放熱 | 外装全体を放熱面として活用可能 | 接触面、材質、利用者が触れる表面温度を確認 |
| 液冷 | 高発熱部品に対応しやすい | 配管、ポンプ、漏れ、保守性を確認 |
ヒートシンクのカタログ値は、自然空冷時と指定風速時で大きく異なります。
必ず実機の風量条件に近いデータを使うことが重要です。
フィン形状と取り付け方向
自然空冷用のヒートシンクでは、フィンの間を空気が上下に流れやすい方向で設置することが基本です。
横向きに設置すると暖かい空気が抜けにくくなり、カタログ値より放熱性能が低下することがあります。
強制空冷では、風の流れに対してフィンがどの向きに並ぶか、風がショートカットせずフィン間を通るかを確認します。
周囲に背の高い部品やケーブルがあると、気流が乱れ、局所的に熱がこもる場合もあります。
ヒートシンク単体の性能ではなく、装置内で実際に得られる風の流れを評価することが大切です。
基板と筐体を活かす放熱設計
続いては基板と筐体を活かす放熱設計を確認していきます。
銅箔面積とサーマルビアの活用
表面実装部品では、基板の銅箔が重要な放熱部材になります。
放熱パッドの周辺に広い銅箔を設けると、熱が基板内へ拡散しやすくなります。
多層基板では、サーマルビアによって表層の熱を内層や裏面の銅箔へ伝える方法が有効です。
サーマルビアは穴径、個数、めっき厚、ランド構造によって放熱性能が変わります。
はんだ抜けや実装不良を避けるため、ビアを樹脂で埋める構造や、部品直下を避ける配置も検討対象です。
基板放熱は、部品を取り付けた後では変更しにくいため、回路設計と同時に考える必要があります。
熱伝導材料と接触面の管理
部品とヒートシンク、基板と筐体の間には、熱伝導グリス、ギャップフィラー、熱伝導両面テープ、絶縁シートなどが使われます。
熱伝導率が高い材料でも、厚みが大きければ熱抵抗は増えます。
一方で、隙間を無理に薄い材料で埋めようとすると、接触不良や部品への応力につながるかもしれません。
| 材料 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 熱伝導グリス | 平滑な金属面同士 | 薄く塗布しやすく、接触熱抵抗を下げやすい |
| 熱伝導シート | 絶縁が必要な部位 | 扱いやすいが、厚みと圧力条件の確認が必要 |
| ギャップフィラー | 大きな隙間の充填 | 柔らかく追従性が高いが、厚みで熱抵抗が増えやすい |
| 熱伝導両面テープ | 軽量部品の固定 | 取り付けが簡単だが、高発熱用途では性能確認が必要 |
接触面の平面度、締結圧、材料の経年硬化まで考慮すると、設計の再現性が高まります。
筐体内温度と周囲温度の見落とし
放熱計算で使う周囲温度は、室温とは限りません。
密閉に近い筐体では、内部空気が室温より10℃から30℃以上高くなることもあります。
複数の発熱部品がある場合は、上流側の部品で温められた空気が下流側へ流れ、後段部品の周囲温度を上げます。
電源、CPU、抵抗器、LEDドライバなどを近接配置する際は、部品単位の計算に加えて装置全体の熱収支を確認しましょう。
周囲温度は、設置環境の室温ではなく、部品の近くで実際に生じる局所温度で設定します。
実測用の熱電対や温度センサーを配置し、最も厳しい運転条件で確認することが信頼性向上につながります。
放熱計算の実務手順と検証方法
続いては放熱計算の実務手順と検証方法を確認していきます。
データシートから必要な値を集める手順
最初に、対象部品の最大定格、推奨動作条件、熱抵抗、許容接合部温度をデータシートから確認します。
次に、実際の回路条件から電流、電圧、スイッチング周波数、効率、デューティ比を整理し、最大時の損失電力を求めます。
ヒートシンクを使う場合は、熱抵抗の測定条件、設置方向、風速、表面処理、取り付け穴の位置も確認対象です。
基板放熱を利用する部品では、評価基板の層数や銅箔面積が実機と一致しているかを確認しましょう。
データシートの熱抵抗は、脚注や測定条件まで読むことで初めて正しく使えます。
計算から部品温度を見積もる流れ
放熱計算は、発熱量を求め、温度条件を決め、必要な熱抵抗を逆算する流れで進めると整理しやすくなります。
| 手順 | 確認内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 発熱源の抽出 | 熱を出す部品と最大損失 | 通常時だけでなく最大負荷時も確認 |
| 温度条件の設定 | 周囲温度と目標接合部温度 | 設置環境と安全率を反映 |
| 熱経路の整理 | 基板、ヒートシンク、筐体への経路 | 直列と並列の経路を区別 |
| 熱抵抗の算出 | 必要な放熱性能 | 接触熱抵抗を忘れず加算 |
| 部品選定 | ヒートシンクや冷却方式 | 風量と実装条件に適合させる |
| 実測検証 | ケース温度や基板温度 | 最悪条件で測定し計算と比較 |
計算値は設計の出発点であり、最終判断は実機での温度測定と組み合わせるのが基本です。
温度測定とシミュレーションによる確認
実機評価では、熱電対、サーミスタ、赤外線サーモグラフィーなどを用いて温度を測定します。
赤外線カメラは熱分布を把握しやすい一方で、表面の放射率設定によって測定値が変化するため注意が必要です。
光沢のある金属面は周囲の熱を反射しやすく、そのままでは正しい温度を読み取りにくい場合があります。
黒色テープを測定点に貼るなど、放射率を安定させる工夫が役立ちます。
より複雑な構造では、熱流体解析や熱シミュレーションを利用すると、気流の偏りやホットスポットを予測しやすくなります。
計算値と実測値が大きく異なる場合は、発熱量、周囲温度、接触熱抵抗、気流条件のどこかに見落としがある可能性があります。
一度にすべてを修正せず、測定条件をそろえて差の原因を一つずつ切り分けましょう。
放熱計算のまとめ
放熱計算は、発熱量と熱抵抗から部品の温度上昇を見積もり、必要な冷却性能を判断するための重要な設計手法です。
基本式は、温度上昇 = 発熱量 × 熱抵抗となります。
この関係を使えば、許容接合部温度と周囲温度から、必要なヒートシンク熱抵抗や基板放熱の条件を逆算できます。
特に重要なのは、接合部から周囲までの熱経路を分解し、接触面や空気の流れも含めて考えることです。
ヒートシンクのカタログ値だけで判断せず、自然空冷か強制空冷か、設置方向はどうか、筐体内の温度がどの程度かを確認しましょう。
基板の銅箔、サーマルビア、熱伝導材料、筐体への熱伝達も、放熱性能を左右する大切な要素です。
計算で設計の方向性を決めた後、最悪条件に近い環境で温度を実測すれば、より信頼性の高い製品設計につながります。