磁石や電流のまわりには磁場が存在しますが、その磁場の強さや広がりを考えるときに欠かせない量が磁束です。
電磁気学や物理基礎では頻繁に登場する言葉であり、電磁誘導、発電機、モーター、変圧器の仕組みを理解する土台にもなります。
ただし、磁束と磁場、磁束密度は似た言葉であるため、違いを曖昧にしたまま覚えてしまうケースも少なくありません。
この記事では、磁束の意味、単位、公式、磁束密度との違いを、図を思い浮かべやすい形で丁寧に整理します。
磁束の意味と基本イメージ

それではまず磁束の意味と基本イメージについて解説していきます。
磁場が面を通り抜ける量
磁束とは、ある面をどれほどの磁場が通り抜けているかを表す物理量です。
目には見えない磁場を、面を横切る流れのように捉えると理解しやすいでしょう。
たとえば、棒磁石の周囲にはN極からS極へ向かう磁場があります。
その磁場に対して紙やコイルのような面を置いたとき、面を通過する磁場の総量が磁束です。
磁場が強いほど、また面積が広いほど、面を通る磁束は大きくなります。
磁場が面にまっすぐ入り込む配置では、磁束は最も大きくなる点が重要です。
磁束は磁場そのものではなく、磁場が特定の面を通り抜ける量です。
面積と向きが変われば、同じ磁場の中でも磁束は変化します。
磁力線との関係
教科書では磁場を磁力線で表すことがあります。
磁力線は実際に空間へ線が引かれているわけではなく、磁場の向きや強さを視覚的に示すための表現です。
磁力線が密に描かれる場所ほど、磁場が強いと考えられます。
磁束は、この磁力線がある面を何本通るかというイメージに近い量です。
ただし、磁力線の本数は図解のために人が決めるものなので、厳密な計算では磁束密度と面積を使います。
磁力線の考え方は、磁束の向きと通過量を直感的に理解する補助として役立ちます。
身近な装置にある磁束
磁束は専門的な言葉に見えますが、身近な電気製品の内部でも重要な働きをしています。
発電機ではコイルを回転させて磁束を変化させ、電流を生み出します。
モーターではコイルや磁石に関係する磁束の作用を利用して、回転する力を発生させます。
ワイヤレス充電器では、送電側コイルから受電側コイルへ届く磁束の変化が電力伝送に関わります。
このように磁束は、電気と磁気をつなぐ仕組みを説明するための中心的な概念です。
磁束の単位と公式
続いては磁束の単位と公式を確認していきます。
ウェーバという単位
磁束の国際単位系における単位はウェーバです。
記号ではWbと書きます。
1ウェーバは、1テスラの磁束密度が1平方メートルの面を垂直に通るときの磁束に相当します。
磁束密度の単位はテスラであり、記号はTです。
磁束と磁束密度を混同しないためには、ウェーバは面を通る総量、テスラは場所ごとの強さと整理するとよいでしょう。
| 物理量 | 意味 | 記号 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 磁束 | 面を通過する磁場の量 | Φ | Wb |
| 磁束密度 | 単位面積あたりの磁場の強さ | B | T |
| 面積 | 磁場を受ける面の広さ | S | m² |
| 角度 | 磁場と面の法線がなす角 | θ | 度またはrad |
磁場と面が垂直な場合の計算
磁場が面に垂直に通り抜けるとき、磁束は磁束密度と面積の積で求められます。
磁束 Φ = 磁束密度 B × 面積 S
Φ = BS
たとえば、磁束密度が0.5Tで、面積が2m²なら、磁束は1Wbです。
この場合は磁場が面に対して最も効率よく通過しているため、計算が単純になります。
物理基礎の問題では、まず面積の単位を平方メートルにそろえることが大切です。
平方センチメートルや平方ミリメートルのまま代入すると、答えが大きくずれるおそれがあります。
角度を含む磁束の公式
磁場が面に斜めに当たる場合は、角度を考慮します。
このときの角度は、磁場の向きと面そのものではなく、面に垂直な方向である法線との角度です。
磁束 Φ = BS cosθ
θは磁場と面の法線がなす角です。
θが0度ならcosθは1となり、磁束はBSです。
θが90度ならcosθは0となるため、磁束は0になります。
面に沿って磁場が流れると、面を通り抜ける成分がなくなるためです。
角度は面との角度ではなく法線との角度という点が、計算問題で特に間違えやすい部分でしょう。
磁束密度との違い
続いては磁束密度との違いを確認していきます。
総量と強さの区別
磁束は、ある面を通過する磁場の総量です。
一方で磁束密度は、ある場所における磁場の強さを表します。
同じ磁束密度の磁場でも、通過する面積が2倍になれば磁束も2倍になります。
反対に、面積が同じなら磁束密度が大きいほど磁束も大きくなります。
水の流れにたとえるなら、磁束密度は流れの勢い、磁束はある断面を通る水量に近い関係です。
ただし磁場は水のような物質の流れではないため、あくまで理解を助けるたとえとして使うとよいでしょう。
記号と単位の比較
磁束には通常Φが使われ、磁束密度にはBが使われます。
ギリシャ文字のΦはファイと読みます。
なお、磁場の強さをHで表す場合もありますが、BとHは同じ意味ではありません。
Bは磁束密度、Hは磁界の強さであり、物質の磁化などを詳しく扱う場面で区別されます。
物理基礎の範囲では、まずBが磁束密度であることを確実に覚えると理解が進みます。
| 比較項目 | 磁束 | 磁束密度 |
|---|---|---|
| 表す内容 | 面を通る磁場の総量 | ある地点の磁場の強さ |
| 主な記号 | Φ | B |
| 単位 | Wb | T |
| 面積との関係 | 面積で変化する | 基本的に面積そのものでは決まらない |
磁場の向きと法線の考え方
磁束を正しく扱うには、面の向きを表す法線ベクトルの考え方が欠かせません。
法線とは、面に対して垂直な方向を示す線です。
同じコイルでも、コイルの面を回転させれば法線の向きが変わります。
すると磁場との角度が変化し、コイルを通る磁束も変わります。
この変化が電磁誘導を起こす出発点になります。
磁束は磁場の大きさだけでなく、面の向きでも決まると覚えておくと、回転コイルの問題を読み解きやすくなります。
磁束密度が一定でも、面を回転させるだけで磁束は変わります。
発電機が電気を生み出せる理由は、この磁束の変化にあります。
電磁誘導と磁束変化
続いては電磁誘導と磁束変化を確認していきます。
ファラデーの電磁誘導
コイルを通る磁束が変化すると、コイルには電圧が生じます。
この現象を電磁誘導といいます。
発見者の名前にちなみ、ファラデーの電磁誘導の法則として学ぶこともあります。
磁石をコイルに近づけたり遠ざけたりすると、コイルを通る磁束が増減します。
その結果として、導線内の電子が動き、誘導電流が流れます。
磁石を止めたままにすると磁束が変化しないため、基本的には電流も発生しません。
大切なのは磁束の量そのものより、磁束が時間とともに変化することです。
誘導起電力の大きさ
誘導起電力とは、電磁誘導によって生じる電圧です。
誘導起電力は、磁束の変化が大きいほど、また変化が短時間で起こるほど大きくなります。
コイルの巻き数が多い場合も、誘導起電力は大きくなります。
誘導起電力の大きさ = コイルの巻き数 × 磁束の変化量 ÷ 変化にかかる時間
磁束を急激に変化させるほど、発生する電圧は大きくなります。
厳密な式では符号も重要ですが、物理基礎ではまず変化の速さと巻き数の関係を押さえるとよいでしょう。
磁石を速く動かすと豆電球が明るくなりやすいのは、磁束変化が短時間で起きるためです。
レンツの法則による向き
誘導電流の向きは、磁束の変化を妨げる向きに決まります。
これをレンツの法則といいます。
たとえばコイルを通る磁束が増えようとすると、誘導電流は増加を打ち消す向きの磁場を作ります。
反対に磁束が減ろうとすると、減少を補う向きの磁場を作ります。
この性質があるため、エネルギーを使わずに電気だけを取り出すことはできません。
発電機のハンドルが重く感じられる現象も、磁束変化を妨げる作用と関係しています。
レンツの法則は、誘導電流が磁束の変化を妨げる向きに流れるというルールです。
向きを考える問題では、増える磁束か減る磁束かを最初に見極めます。
磁束を使う代表的な機器
続いては磁束を使う代表的な機器を確認していきます。
発電機と交流電流
発電機では、磁場の中でコイルを回転させます。
コイルの面が回転すると、コイルを通る磁束が周期的に変化します。
磁束の変化に応じて誘導起電力が発生し、電流の向きも周期的に入れ替わります。
これが交流電流です。
発電所の大型タービンから自転車のダイナモまで、基本的な考え方には磁束変化が使われています。
コイルの回転速度を上げると磁束変化の回数が増え、交流の周波数にも関係してきます。
変圧器と電圧変換
変圧器は、交流電圧を高くしたり低くしたりする装置です。
一次コイルに交流を流すと、鉄心を通る磁束が変化します。
この変化する磁束が二次コイルを通り、誘導起電力を生じさせます。
巻き数の違うコイルを用いることで、電圧を変換できます。
送電では高電圧にして電流を小さくし、電線で失われるエネルギーを抑えます。
家庭の近くでは電圧を下げ、安全に利用できる電圧へ調整します。
変圧器は変化する磁束を鉄心に集めて利用する装置と考えると構造を理解しやすくなります。
モーターとワイヤレス充電
モーターは電流と磁場の相互作用を利用して回転力を得る機器です。
コイルに流れる電流が作る磁場と、永久磁石などが作る磁場が作用し合います。
設計では、必要な力を効率よく取り出せるように磁束の通り道が考えられます。
ワイヤレス充電では、送電コイルの交流電流によって磁束を変化させます。
近くにある受電コイルでは、その磁束変化によって電圧が発生します。
コイルの位置がずれると伝わる磁束が減り、充電効率が低下することもあります。
磁束は、非接触でエネルギーを届ける技術にも深く関係しています。
磁束の理解と学習の要点
最後に磁束の理解と学習の要点をまとめます。
磁束は、磁場がある面を通り抜ける量を表す物理量であり、単位にはウェーバを使います。
磁束密度Bと面積S、さらに磁場と法線の角度を使うことで、磁束を計算できます。
磁場が面に垂直なら磁束は最大となり、面に沿う方向なら磁束は0です。
磁束密度は磁場の強さ、磁束は面を通る総量という区別を押さえておきましょう。
また、磁束が変化すると電磁誘導が起こり、発電機、変圧器、モーター、ワイヤレス充電などの仕組みへつながります。
公式を暗記するだけでなく、面の向き、法線、磁場の向き、磁束の増減を図で考える習慣をつけると、電磁気学の理解が一段と深まるでしょう。