科学・技術

850nmとは?波長の特徴と用途を解説!(近赤外光:光通信:レーザー:半導体:波長帯域:光ファイバーなど)

当サイトでは記事内に広告を含みます

光の世界では、波長によってその性質や用途が大きく異なります。

そのなかでも850nm(ナノメートル)という波長は、光通信・医療機器・センサー技術など多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。

850nmは人間の目には見えない近赤外光の領域に属しており、光ファイバー通信のショートリーチ伝送や半導体レーザー(VCSEL)の発振波長として広く使われています。

本記事では、850nmという波長の物理的な特徴から具体的な用途・応用技術まで、わかりやすく解説していきます。

光技術に関心のある方や、光通信・レーザーについて学びたい方はぜひ最後までご覧ください。

850nmとは近赤外光領域に属する光通信と半導体技術に広く使われる重要な波長である

それではまず、850nmという波長の基本的な物理的特性について解説していきます。

光の波長はナノメートル(nm:10億分の1メートル)という単位で表され、波長によって可視光・赤外光・紫外光などに分類されます。

人間の目で見える可視光の範囲はおよそ380nm〜780nmとされており、850nmはその可視光域をわずかに超えた位置に存在します。

850nmは近赤外光(NIR:Near-Infrared)の領域に分類され、熱線としての赤外光ほど波長が長くなく、可視光に近い性質を持つことが特徴です。

この波長域は半導体材料(特にGaAs系化合物半導体)との親和性が高く、半導体レーザーや発光ダイオードの発振波長として技術的に扱いやすいという優れた特性を持っています。

電磁波スペクトルにおける850nmの位置づけ

850nmが電磁波スペクトル全体のどこに位置するかを確認しておきましょう。

波長帯域 波長範囲 主な特徴
紫外光(UV) 10nm〜380nm エネルギーが高い・殺菌作用
可視光 380nm〜780nm 人間の目で識別できる
近赤外光(NIR) 780nm〜2500nm シリコン・GaAsへの透過性が高い
中赤外光(MIR) 2500nm〜25000nm 分子振動に対応・化学分析に利用
遠赤外光(FIR) 25000nm以上 熱放射・体温計測

850nmは近赤外光の中でも短波長側(SWIR領域に近い側)に位置しており、半導体との相性の良さから光エレクトロニクス分野で特に重要視されています。

850nmの光の物理的性質

850nmの光は、その波長に由来するいくつかの重要な物理的性質を持っています。

まず、シリコン(Si)に対する透過性です。シリコンの光吸収端はおよそ1100nm付近にあり、850nmはシリコンに吸収される波長域に属します。

これはシリコンフォトダイオード(光検出器)が850nmの光を効率よく検出できることを意味しており、受光素子として広く普及しているシリコンフォトダイオードとの組み合わせが容易です。

一方で、ガリウムヒ素(GaAs)系半導体は850nm付近に発光ピークを持つものが多く、VCSELなどの半導体レーザーの発振波長として850nmが自然に選択されてきた背景があります。

850nmと1310nm・1550nmの違い

光通信でよく使われる波長帯として850nm・1310nm・1550nmが挙げられますが、それぞれどのように使い分けられているのでしょうか。

光通信における主要波長帯の比較

850nm:マルチモード光ファイバー向け・ショートリーチ通信(〜数百m)・VCSEL使用・コスト低

1310nm:シングルモード光ファイバー向け・ミドルリーチ通信(数km〜数十km)・ファイバー分散が最小

1550nm:シングルモード光ファイバー向け・ロングリーチ通信(数十km〜数千km)・光ファイバー損失が最小

850nmは伝送距離は短いがコストが低いという特徴から、データセンター内などのショートリーチ光インターコネクトで圧倒的なシェアを持っています。

850nmが光通信に活用される理由と仕組みを確認しよう

続いては、850nmが光通信分野でどのように活用されているのか、その理由と仕組みについて確認していきます。

データセンターや企業内ネットワークにおける850nmの重要性は非常に高いものがあります。

マルチモード光ファイバーと850nmの相性

850nmが光通信で多用される主な理由のひとつが、マルチモード光ファイバー(MMF)との優れた相性です。

マルチモード光ファイバーはコア径が50μmまたは62.5μmと比較的大きく、光の結合が容易で低コストのコネクタや送受信モジュールが使えます。

850nmのVCSELはビーム径が比較的大きく、マルチモードファイバーとの光結合効率が高いため、安価で信頼性の高い光通信システムを構築できます。

データセンター内のサーバー間・スイッチ間接続では、OM3・OM4・OM5規格のマルチモードファイバーと850nm VCSELの組み合わせが標準的な構成として採用されています。

VCSELの仕組みと850nm発振の原理

850nm光通信の中核を担うのがVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザー)です。

VCSELは半導体ウェハの表面に対して垂直方向にレーザー光を発振する構造を持ち、従来のエッジエミッタレーザーと比較していくつかの優れた特性を持っています。

主な利点としては、ウェハ状態でのテストが可能なため製造コストが低い・円形ビームで光ファイバーとの結合が容易・高速変調に対応しているなどが挙げられます。

850nm VCSELはGaAs/AlGaAsの多層構造によって実現されており、25Gbps・50Gbpsを超える高速データ通信に対応した製品も開発されています。

イーサネット規格における850nmの採用状況

850nmはイーサネット規格でも広く採用されています。

イーサネット規格 使用波長 最大伝送距離 使用ファイバー
1000BASE-SX(1GbE) 850nm 550m(OM2) MMF
10GBASE-SR(10GbE) 850nm 400m(OM4) MMF
25GBASE-SR(25GbE) 850nm 100m(OM4) MMF
100GBASE-SR4(100GbE) 850nm×4レーン 100m(OM4) MMF

データセンター内のスパイン・リーフアーキテクチャでは、100GbEや400GbEの接続でも850nm VCSELを複数レーン並列で使用する方式が主流となっています。

850nmの医療・センサー・セキュリティ分野での応用を解説する

続いては、光通信以外の分野における850nmの応用について解説していきます。

850nmは医療・センサー・監視カメラなど、日常生活に密接した分野でも広く活用されています。

医療分野での近赤外光利用(fNIRS・パルスオキシメーター)

850nmを含む近赤外光は医療分野でも重要な役割を果たしています。

パルスオキシメーターは、赤色光(660nm付近)と近赤外光(850nm付近)の2波長を使って血中酸素飽和度(SpO2)を非侵襲的に測定する医療機器です。

酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンは近赤外光に対する吸収特性が異なるため、2波長の吸収比を計算することで血中酸素濃度を算出できます。

また、fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy:機能的近赤外分光法)は、近赤外光を使って脳の血流変化を計測し、脳活動を可視化する技術です。

MRIと比較して装置が小型・軽量で被験者の動きに対して比較的ロバストなため、脳科学研究や神経リハビリテーションへの応用が進んでいます。

監視カメラと近赤外照明への応用

セキュリティ・監視カメラの分野でも850nmは重要な役割を果たしています。

監視カメラに搭載されるIR LED(近赤外LED)の発光波長として、850nmと940nmが広く使われています。

850nmは人間の目に薄く赤みが見える程度であり、カメラの撮影範囲を照らしながら目立ちにくいという特性があります。

シリコンCMOSイメージセンサーが850nmの光に対して高い感度を持つため、暗所での監視映像の品質を大幅に向上させることができます。

夜間の駐車場・入退室管理・屋外防犯カメラなど、さまざまなセキュリティ用途で850nm IRイルミネーターが採用されています。

距離計測・LiDARセンサーへの応用

近年急速に普及している自動運転技術や産業用ロボットに使われるLiDAR(Light Detection And Ranging)センサーにも、850nm付近の近赤外光が活用されています。

LiDARはレーザー光を照射し、物体に反射して戻ってくるまでの時間を計測することで距離や3D形状を高精度に測定する技術です。

850nm VCSELはLiDAR用の光源として、高出力・高速変調・小型化の面で優れた特性を持ちます。

スマートフォンに搭載されているフェイスIDやデプスセンサーにも850nm付近の近赤外VCSELが使われており、身近な製品にも広く普及しています。

850nmレーザーの安全性と取り扱い上の注意点

続いては、850nmレーザーを扱う際の安全性と注意点について解説していきます。

近赤外光は人間の目に見えないため、適切な安全知識が特に重要です。

レーザークラス分類と850nmの安全基準

レーザーはその出力と波長によってクラス1〜クラス4に分類されており、クラスによって安全基準と取り扱いルールが異なります。

IEC 60825-1に基づくレーザーのクラス分類(概要)

クラス1:通常使用で安全・低出力(光ディスクドライブ・レーザープリンターなど)

クラス1M:ビーム拡大や集光なければ安全・光ファイバー通信モジュールなど

クラス2:可視光のみ・瞬きで保護される低出力レーザー

クラス3R:直視は危険・出力5mW未満(レーザーポインターなど)

クラス3B:直接照射は危険・出力500mW未満

クラス4:拡散反射光も危険・高出力レーザー

光通信モジュールに使われる850nm VCSELの多くはクラス1またはクラス1Mに分類されますが、近赤外光は目に見えないため瞬きによる防御反応が働かないという危険性があります。

近赤外光の目への影響と保護眼鏡の必要性

850nmを含む近赤外光は人間の目に見えないにもかかわらず、網膜にダメージを与える可能性があります。

可視光であれば眩しさを感じてまぶたを閉じる防御反応が働きますが、近赤外光は眩しさを感じないため、高出力の近赤外レーザーを直視すると気づかないうちに網膜損傷を起こす危険性があります。

高出力の850nmレーザーを使用する実験や作業では、850nm帯に対応した適切な光学的保護眼鏡(レーザーゴーグル)の着用が義務づけられています。

光通信の保守作業でも、ファイバー端面からの光漏れに注意し、通電中のファイバー端面を直接覗き込まないことが基本的な安全ルールです。

850nmレーザー製品の適切な廃棄と環境への配慮

850nmレーザーを搭載した電子機器や光通信モジュールの廃棄については、各自治体および産業廃棄物処理の規定に従う必要があります。

特に産業用レーザー装置や医療機器については、専門の産業廃棄物処理業者に依頼することが推奨されます。

光ファイバー通信モジュールはRoHS指令などの環境規制に対応した製品が多く、有害物質の使用が制限されていますが、廃棄の際は適切な分別処理が求められます。

まとめ

850nmとは、近赤外光領域に属する波長であり、光通信・医療機器・センサー・監視カメラなど多岐にわたる分野で広く活用されている重要な波長です。

光通信においては、マルチモード光ファイバーと850nm VCSELの組み合わせがデータセンターのショートリーチ光インターコネクトの標準として普及しています。

医療分野ではパルスオキシメーターやfNIRSに、セキュリティ分野では暗視カメラに、そして自動運転技術ではLiDARセンサーにと、850nmは現代技術を支える縁の下の力持ちといえるでしょう。

近赤外光は目に見えないため安全意識が特に重要であり、取り扱い時には適切な保護具の使用と安全ルールの遵守が求められます。

本記事が850nmという波長への理解を深めるきっかけになれば幸いです。